ほかならぬ人へ
「ほかならぬ人へ」白石一文
(2013年1月10日祥伝社)
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あらすじ
「ベストの相手が見つかったときは,この人に間違いないっている明らかな証拠があるんだ」…妻のなずなに裏切られ,失意のうちにいた明生。半ば自暴自棄の彼はふと,ある女性が発していた不思議な“徴”に気付き,徐々に惹かれていく…。様々な愛のかたちとその本質を描いて第一四二回直木賞を受賞した,もっとも純粋なれない小説。
こんな人におすすめ
・普通の幸せを求めているのに上手く行かない人
・人を好きな想いが止められず自分で分かっても壊れてしまう人
・自身でもよくわからない反抗心から他の異性を求めてしまう人
第一四二回直木賞受賞作で帯に「男女間の恋愛を徹底して突き詰めた傑作の誕生」と書いてあったので容易に知りたい~と思い手に取ってしまいました。
この本は2編の話が収録されていて(【ほかならぬ人へ】【かけがえのない人へ】)それらは全く違う話になっていますが,両方とも恋愛に関して考えさせるような人たちが出てきます。
※少しネタバレも入ってしまうので以下読む人はご注意を※
【ほかならぬ人へ】
主人公の明生は名家の生まれですが,優秀な家族・兄弟と比べて非凡なところが何もなく,折り合いが悪い人生を送ってきました。
そのような状況下で許嫁の存在を蹴り家族との縁を切ってまで,自身がこの人!と決めたなずなと結婚します。
当初こそ上手く行くと思われましたが,なずなは昔からずっと好きだった幼馴染(真一)を忘れられない人で,結婚後数年すると明生から心が離れてしまいます。
この件に関して明生も理性的に何度も話し合いの場を設け,辛抱強くなずなを受け入れます。
ただ,なずなはもう明生のことを一切考えられておらず
「明生ちゃん,ほんとうにごめんなさい」
もう一度詫びを繰り返す。
「でも,私にはどうしても真ちゃんなのよ」p103
といったように自身の好きな人への想いのままに生きようとします。
明生はもう一度なずなに振り向いてほしい気持ちも勿論ありますが,それ以上になずなが真一へ過度な愛を向け行動していることで,今後まともな人生になりそうもないことを確信して最後の命綱となってあげようと頑張ります。これは読者からしても本当にその通りで,もし,ここで明生が手を放してしまったらきっとなずなはもうどうしようもない人生を送ってしまうのではないかと思えます。
ただ,そういった明生の気持ちとは裏腹に,なずなは明生に対して不誠実な対応ばかりをして,なんとも嫌な気持ちになります。笑
きっと,なずなとしては、真一が好きなだけなんでしょう。
それなのに僕は彼女に対して好ましい思いは持てずにいます。
様子伺いに来た義父母が帰ったあと,なずなは何気ない調子で呟くようにこう言ったのだ。
「自分の信念を貫くだけで,周りの人がこんなに傷つくなんて思いもしなかった……」
明生はそれを耳にしたとき,自分はなずなが信念を貫くのを邪魔立てしているにすぎないのかと思った。思ったとたんに恥ずかしさや情けなさでいたたまれない心地になった。
p160
ここを読んだ時に僕はなんとも悲しい気持ちになりました。
明生もなずなも二人ともが違う理由で空虚な気持ちになっていて,そんなのなずなが我儘なだけじゃんと思う一方で,でも人ってそういうものだよなと思ったり。
自分の信念や後悔をしたくないという気持ちのためにどこまでが他者に迷惑をかけることが許されるんだろう。またそんな行動をしようとしている自分自身の気持ちは本当のものなのだろうか。一過性じゃないのか。そんなことをグルリグルリ考えさせられてしまうお話でした。
(上記で述べたことはこの話の一つの本筋ではありますが,明生がこういった状況の時に寄り添ってくれる尊敬すべき女上司,東海さんや,明生の良き相談相手で元許嫁である渚もストーリーには大きくかかわります。様々な愛の形が渦巻いており,これもまたとても考えさせられます)
【かけがえのない人へ】
これは一言で言ってしまうと,
結婚が決まっているのに元カレとカラダの関係を続ける女性の話です。
この主人公の女性,みはるはなかなかにサバサバしている人です。結婚についても後ろ向きではないもののまぁ相手に文句はないからしようというスタンスでいます。
「私は女だから,そんなふうには思えないのよ。とにかく私としては一度結婚というキャリアを消化しておきたいの。誰が相手でもいいってわけじゃないけど,水鳥さんなら条件的には申し分ないでしょ。失敗したところで結婚という経験をすることができた,というのが大きいのよ。自分でもいやになるような,このわけの分からない結婚願望のようなものを私は私のこの身体のなかから早く追い払いたいの」
p222
ふーむ。こう考える人が世の中にいてもおかしくないとは思いますが,こういった方と結婚するとなるときっとどこかで踏ん張りがきかなく,あーやっぱ結婚ってめんどくさいってなって思われて別れる未来がありありと見えますね。。。
ちなみに元カレの方も元カレの方で持論があって,
「俺はほんとうはこういう関係が一番好きなんだ。会いたいときに会って,やりたいときにやって,そのたんび後腐れもなきゃ,嫉妬も執着もない。無理して一緒に暮らして,お互いを縛りあったりあらさがしをしたりもしない。そういう関係が死ぬまでつづけば,俺はそれが一番いいと思っているんだ」
p288
お互いに考えが同じ方へ寄ってて,いいカップルだなと思いますけどね。
きっと理解されがたいけど一定数上記の事を考えている人はいると思います。
それが一生というよりかは昔はこう思っていたとかそういうレベル感かもしれませんが。
なんにせよこの2編の中で,「人間の愛の本質」かはなんとも断言しづらいですが,愛のために身を捧げてしまう人たちの姿はよく映し出されていて,読後からずっとなにが幸せかをうーーんと考えてます。
恋愛って世知辛いなぁと思いたい人は是非お読みください。笑