夜行
「夜行」森見登美彦
(2019年10月9日小学館)
あらすじ
十年前、同じ英会話スクールに通う僕たち六人の仲間は、連れだって鞍馬の火祭を見物にでかけ、その夜、長谷川さんは姿を消した。十年ぶりに皆で火祭に出かけることになったのは、誰ひとり彼女を忘れられなかったからだ、夜は、雨とともに更けてゆき、それぞれが旅先で出会った不思議な出来事を語り始める。尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡。僕たちは、全員が道中で岸田道生という鋼版画家の描いた「夜光」という連作絵画を目にしていた。その絵は、永遠に続く夜を思わせたーー。果たして、長谷川さんにさいかいできるだろうか。怪談×青春×ファンタジー、かつてない物語。
こんな人におすすめ
・多角的情報から判断するミステリーが好きな人
・回想から今に繋がる話が好きな人
・自分の今いる世界に自信が持てない人
尊敬する方が大の森見さん好きということで、読んでみたいなと思い購入しました。
森見さんの以前の作品ですと話題になっていたので「ペンギンハイウェイ」は読んだことがありました。そのときは正直文体が自分に合わず、うーん・・・となってしまいました。
ただ、「夜は短し歩けよ乙女」の映画を見てこの世界観は素晴らしいなと思っていたので、今回読んでみるのが楽しみでした。
本を読んでみた感想としては、なるほど・・・!?!?という印象でした。
なんというか、ミステリーに着目する点が自分と異なっていて面白いなと思いました。
この本を読んだことで、僕は今までミステリーに対して『なぜこういうことをしたか(こういうことがおきたか)』の答えを求めていたのだなと思いました。
一方で「夜行」において森見さんが描いているのは『不可思議な現象を体験したときどう感じるか、その上でどう生きて行くか』ということだったように僕は思います。
これって、きっと、現実で生きる人の考えに寄り添っている気がします。原因を追求する(過去)のではなく、体験を踏まえてではどうするか(未来)ということです。結局人は生きていかないといけないのだから、というような諦観のようなものすら感じます。
なので、そういった逆説的にではありますが自分の価値観に気付けたという点でもこの小説は面白かったです。
あと、ストーリーの大筋がスッキリしていたように感じます。
①10年振りに4人の友人で集まる(10年前、長谷川さんが失踪したとき以来)
②この10年でもしかしたら長谷川さんの失踪に関係しているかもしれない怪奇現象に4人とも遭遇していた
③4人がそれぞれの出来事を回想して話す
という流れです。
そして各章タイトルはその出来事が起きた場所に関連した地名が当てられます。
第一夜:尾道
第二夜:奥飛騨
第三夜:津軽
第四夜:天竜峡
そして実は、この四つの場所は岸田道生という鋼版画家の描いた「夜行」という48個の地名からなる一連の作品の各タイトルにもなっていて、岸田と失踪した長谷川さんの関係は?等多くの疑問が渦巻く話となっています。
上記の話の後に最終夜:鞍馬があってこの物語は終わりを迎えるのですが、なんだかすごいエレガントな構成だと思いませんか?
なんとなくのような突発的に書いていった小説ではなく、丁寧に計算されて落ち着いて書かれたような印象があります
作者本人も「あたかも夜行列車のような読み心地の小説を書いてみようと考えた」といっているように、暗闇を進む寂しさから抜け出して朝の光に安心するところがこの本の魅力です。
漠然とした不安を抱きつつ夢心地のまま進んでいく物語ですので、そういった感覚に浸りたい方(たまにそういうときありません?笑)にはピッタシかもしれません!