クライマーズ・ハイ
「クライマーズ・ハイ」横山秀夫
(2003年8月 単行本 文藝春秋)
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あらすじ
1985年、御巣鷹山に未曽有の航空機事故発生。衝立岩登攀を予定していた地本氏の遊軍記者、悠木和雅が全権デスクに任命される。一方、共に登る予定だった同僚は病院に搬送されていた。組織の相剋、親子の葛藤、同僚の謎めいた言葉、報道とは――。あらゆる場面で己を試され篩に掛けられる、著者渾身の傑作長編。
こんな人におすすめ
・記者の裏側やノンフィクションをリアルに知りたい人
・自分の仕事は好きだが、様々な葛藤を抱えている人
・多くのテーマを持つ作品が好きな人
非常にリアリティのあり面白い本でした。もしメディアに関わる仕事を少しでも考えているのであれば心から読んでいただきたい一冊です。
この作品は、群馬県御巣鷹山での航空機墜落事故において、地元新聞社に勤める40歳の悠木がデスク(新聞に載せる用の記事の修正と取りまとめを行う)として向き合った7日間と、その17年後の衝立岩登攀の二つを主軸にストーリーが展開していきます。
御巣鷹山での航空機墜落事故は実際にあった出来事です。
524名の乗客のうち520名が命を落とすという世界的に見ても史上最大の死者を出した航空機墜落事故だと言われています。
実は作者の横山秀夫さん自身、事故当時上毛新聞社の記者として働いていたそうです。
実際に航空機の墜落事故後も2か月近く現場に足を運んでいたという過去があります。
当時の横山さんは20代ですから、本作主人公の悠木とは一回り以上歳は違うものの、実際に見てきた事実をベースにしているためか微に入り細を穿つ描写ばかりです。
当時からこれを題材に作品を創りたいと思っていたものの、様々な理由から書くことができなかったそうです。この本が初めて単行本として出版されたのが2003年ですから、事故以降20年近くの月日が経ってようやく形にできた、ということだと思います。
この本には非常に数多くのテーマが存在します。
地方紙と全国紙の違いの葛藤、仕事の誇り、間接的に部下を殺した後悔、上司との軋轢、過去の栄光に縋り改善が行われない現状、会社の犬、友人の死、息子とのもどかしい距離感、命の重さ、報道の意義・・・
このどれもに、ままならなさと共感のようなものが散らばっており、読者はいつの間にかこの本の世界観にどっぷり浸かっていってしまうのです。
報道がどのようにあるべきか。
これは昨年の京都アニメーション放火殺人事件でも議題に上がりました。本作は実名報道という観点の小説ではないのですが、記者が何を考え何で対立しあい何で葛藤するのか、そのヒントが非常に多く詰まっています。
心とか、気持ちとかが、人のすべてを司っているのだと、こんな時に思う。 p 425
本作の数多いテーマの殆どがこのセリフに集約しているのではないかと思いました。
読み進めていく中で、思いを馳せていると、このセリフの意味がストンと胸に落ちた感じがするのです。
もしかしたら何一つ解決できてはいないのかもしれない。
でも読み終わった時に何かが救われた気持ちになる。そんな小説です。