バラカ
「バラカ<上><下>」桐野夏生
(2019年2月25日集英社文庫)
あらすじ
東日本大震災によって,福島原発4基すべてが爆発し、日本は混沌としていた。たった一人で放射能被害の警戒区域で発見されたバラカは、豊田老人に保護された。幼くして被爆した彼女は、反原発・推進両派の異常な熱を帯びた争いに巻き込まれーーー。すべての災厄を招くような川島に追われながらも、震災後の日本を生き抜いてゆく。狂気が狂気を呼ぶ究極のディストピア小説、ついに文庫化!
こんな人におすすめ
・日本のifストーリーが好きな人
・各章異なる主人公が入り混じっていくのが好きな人
・被災地への関心を高めたい人
この本は東日本大震災を題材に描かれた話ですが、現実と違う点として、福島第一原発原子力発電所の事故により4基のプラント全てがメルトダウンしたというところのみが異なります。
それによりこの小説内において関東圏まで放射性物質が拡散、首都は大阪に移行しオリンピックも2020年に大阪で開催されるという話になっています。
バラカというのはこの物語に出てくる中心となる少女の名前です。
上巻ではバラカを取り巻く3人の視点からストーリーが描かれます。
1人目はパウロ。彼は日系ブラジル人の日本に出稼ぎにした男性です。紆余曲折の末、娘(バラカ)が海外で行方不明となり、その所在を捜します。
2人目は沙羅。彼女は日本人の独身女性編集者であり、ドバイに行き人身売買所で実際に娘を買います。その少女こそがバラカです。
3人目は川島。沙羅がバラカをもらい受けた後に結婚した不気味な葬儀屋です。
そして下巻は上巻からおよそ8年の月日が過ぎ去ったバラカからの視点で描かれます。
東日本大震災が起きるのは上巻の半ばです。それまでは「娘」や「家族」というものを一つ主軸として話が進んでいきます。そして震災以降は、そのパニックや事態の収拾のために右往左往する人々の姿というのが描かれていきます。
一方下巻はというと、震災から月日が経っても、被爆者として過ごすバラカと、放射線被爆の存在を隠蔽しようとする国家組織のようなものも絡んでいき話の雲行きが大きく変わります。
なので、全体を通して一貫した一つのテーマがあるというよりかは、様々な状況下で私利私欲のために動き続ける人々が群像的に描かれているという印象です。
にしても、出てくる大人が誰もかれもがホントに自分勝手すぎて腹の下のほうが沸々としてくる感じです。世の中にはこんなにどうしようもない人が多いのかなと少しだけ悲しくすらなりました。
作者のメッセージが至る所に散りばめられている構成だなぁと読んでいて思いました。どれを拾い上げて思うかは読者次第というのはあると思います。
僕としては子どもが安心して生きていける世の中、というのを創っていける人になりたいと思わされました。
この答えが決して模範解答だとは思わないんですが、本の良いところは読んだ自分がどんなメッセージを受け取っても良いという自由があるということだと信じているので。
個人的には最後のまとめ方が少し物足りなかったのですが、この話はどこに落とし込んでも難しいよなぁとも思いつつ。。。
反動で、途端に今はハッピーエンド小説が読みたくなりました。笑