プシュケの涙
「プシュケの涙」柴村仁
(2010年2月メディアワークス文庫 ※もとは2009年1月電撃文庫)
あらすじ
これは切なく哀しい不格好な恋の物語。
夏休み、一人の少女が校舎の四階から飛び降りて自殺した。彼女はなぜそんなことをしたのか? その謎を探るため、二人の少年が動き始めた。一人は、飛び降りるまさにその瞬間を目撃した榎戸川。うまくいかないことばかりで鬱々としてる受験生。もう一人は“変人”由良。何を考えているかよく分からない……。そんな二人が導き出した真実は、残酷なまでに切なく、身を滅ぼすほどに愛しい。
<勝手にこんな人にオススメ>
○あらすじ以上に話が深まる話が好きな人
○ネガティブを根源としたモチベーションを見たい人
○もう、どうしようもないという、もどかしい気持ちを味わいたい人
あまり見たことのない構成の話で非常に面白かったです。
まずは未読の方のために、内容にあまり触れないようこの本の魅力を伝えたいと思います。
僕としては著者の柴村さんが文中で用いる地の文の表現がとても好きでした。
なるほど、この状況をまとめるとこのような言葉を使うのかと、すとんと胸に落ちてくるような言葉選びが秀逸です。
例えば
不幸っていうのはきっと不幸同士で仲が良くて、皆でお手々つないで同じ目的地にどやどやと踏み込んでくるんだ。p208
こんな表現があります。
不幸同士が手を繋ぐ、この言葉から伝わる感覚というか温度感みたいなものがすごいなと僕は思ってしまうわけです。
①不幸同士で仲良いという擬人法
②不幸はいつも連なって訪れるという無情さ
③「不幸がお手々つなぐ」という平和的な言葉に内在する残酷さ
④不幸側は加害者意識が無いという無邪気さ
といったようなことが伝わってきて、ああ、苦しくも的を射た言葉の組み合わせだと感じます。
あとは、全てが手遅れになってしまってから、登場人物たちに愛着が湧く構成。これというのは素晴らしいなと思いました。
なんというか、大人になってから飲み会で友達から「そういえば高校の時クラスが一緒だった○○、毎日花に水やりに朝早く登校してたらしいよ」と聞いて、へぇ~、高校の時もっと話せば仲良くなれたかもしれなかったなというような後悔(本編中の後悔はもっと大きいものですが)に似ているかもしれません。
僕としては、この本に出てくる彼方という人物がいつ恋心を抱いたのか、それを誰かと語ってみたいなとそう思います。
もし既読の方がいたら是非・・・。笑