ライオンのおやつ
「ライオンのおやつ」小川糸
(2019/10/7 ポプラ社)
あらすじ
人生の最後に食べたいおやつは何ですか――
若くして余命を告げられた主人公の雫は、瀬戸内の島のホスピスで残りの日々を過ごすことを決め、穏やかな景色のなか、本当にしたかったことを考える。
ホスピスでは、毎週日曜日、入居者がリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫はなかなか選べずにいた。
――食べて、生きて、この世から旅立つ。
すべての人にいつか訪れることをあたたかく描き出す、今が愛おしくなる物語。
<勝手にこんな人にオススメ>
〇いま目の前にある幸せをかみしめたい人
〇思いのこもった料理に触れたい人
〇本を通して安らかな気持ちになりたい人
なんて、あたたかい物語なのだろう。
自身の心を内側からぽかぽかとさせてくれるような、そんな世界に足を踏み入れてしあわせな気持ちでいっぱいです。
余生をどう考えて、何を大事にして過ごすのか。
多くの創作の世界で語られてきたことではあるけど、この物語のように終わりに向かう人の時計の針を、毎週のおやつで確かめるやさしさには初めて出会いました。
主人公の雫の視点から見える世界の美しさも醍醐味です。
きっと、今僕が同じ景色を見てもこのように感じることはできないのだろうなと思うと同時に、そのことで不思議と心が高揚しました。
まだ、僕はこの世界のことを愛せるかもしれない。
もっと世界を愛したときに目に飛び込んでくるのはどんな景色なんだろう。
そのことにワクワクを感じてしまう自分がいました。
雫は33歳で余命を宣告されました。
たくさん辛いことを経験して、絶望を味わって、すべてを捨てて最後に訪れたのが、ライオンの家です。
心落ち着くこの場所で、雫は自分の人生と向き合いました。
大切な人と、犬と出会いました。大切な人たちのことを思い出しました。
死ぬことが怖いとやっぱり思いました。
生きることって素晴らしいことなんだと思いました。
当たり前の尊さに気付いて、それら一つ一つに丁寧に感謝して笑顔になる。
そんな彼女の人生の輝き方、瞬き方が眩しく見えるんです。
こんな気持ちで最期を迎えることができたらどれだけ幸せだろう。
そのために自分はいまを大切に生きているのか。考えてしまいました。
本を閉じた後、大きく深呼吸をして、あぁ幸せだなぁと心の底から思える素敵な一冊です。
疲れた時や心をホッとさせたいとき、是非手に取ってほしいです。
そして、バトンは渡された
「そして、バトンは渡された」瀬尾まいこ
(2018年2月 文藝春秋)
あらすじ
幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。
その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない“父”と暮らす。
血の繋がらない親の間をリレーされながらも、
出逢う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女自身が伴侶を持つとき――。
大絶賛の2019年本屋大賞受賞作。
解説・上白石萌音
<勝手にこんな人にオススメ>
○家族ってなにかを考えたい人
○環境は考え方次第だと思う人
○心をほっと温めたい人
久々の感想更新です。
最近も本はちょこちょこと読み進めていたのですが、
おもったことを文にしようとまでする気力が生まれず…
そのようななかで、今回の「そして、バトンは渡された」。
個人的に非常に好きな話でした。
なんといっても主人公が良いんです。
何度も親が変わって大変なこともあっただろうけども、
「困ったことに私は不幸ではない」という言葉。
これって本質を捉えているなと思いました。
周りから見た大変そうとか普通そんなんじゃ心休まらないよねって言葉はひどく身勝手なもので、結局その人の気持ちなんてその人にしか分からない。
自分がどう思うかというのが大切で、主人公の優子は困るほどの不都合は無かった。
それでよいと思うんです。
だから僕は、この本のレビューを読む中で、
「薄っぺらい話し」だというのがあってとっても驚きました。
一読者たちが、こういう設定だったらもっとこういう葛藤を抱え込まないとダメだろというような圧力を登場人物に加えている気がしたんです。
でも、どう思うかってその人次第だし、そういうことを思う登場人物がいたってことでいいじゃないかと僕は思います。
ということを書きつつ、でも確かにあのシーンはもっとこの子ならこう考えそうだよなとか、そういうのを考えちゃうのが、読者の傲慢なところですね笑
でも、良いんです。この本の本質は、そのところどころの場面ではなく全体の流れにあるとおもうので。
親が子を思う気持ち、子が親を思う気持ち。
それは必ずしも血のつながりである必要はなくて、
お互いがどのように向き合っているか。
やっぱり男手一つで優子の父親になった森宮さんがたまらなく好きです。
「そう。自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。親になるって、未来が二倍以上になるってことだよって。明日が二つにできるなんて、すごいと思わない?」 p315
こういう気持ちを子に抱ける大人って素敵です。
誰かから受け取ったバトンを丁寧に、次に渡せる存在になりたいと思いました。
文庫版は解説で上白石萌音さんが書かれているのですが、
すごく言葉選びや構成が素敵でファンになりました。
萌音さんも小説書かないかなぁ…ひそかな楽しみです…。
その犬の名を誰も知らない
「その犬の名を誰も知らない」著:嘉悦洋 監修:北村泰一
(2020年2月20日 小学館集英社プロダクション)
あらすじ
映画『南極物語』で知られるタロジロの奇跡から60年――いま明かされる真実の物語!
1968年2月、南極。日本南極観測隊・昭和基地近くで、一頭のカラフト犬の遺体が発見された。この情報は一般には知らされず、半世紀たった現在も封印されている。なぜ、これまでその存在が明らかにされなかったのか? はたして、犬の正体は? あのタロジロの奇跡から60年、第一次南極越冬隊の「犬係」で、タロジロとの再会を果たした唯一の隊員である北村泰一氏が、謎多き“第三の犬”について語り始める……。南極第一次越冬隊・最後の証人が明かす真実の南極物語。
<勝手にこんな人にオススメ>
○犬と人の実話に興味がある人
○一風変わったミステリーを読みたい人
○南極物語の裏側を知りたい人
まずは、この作品を作り上げた多くの方に感謝を届けたいです。
読ませていただきありがとうございました。
特に「監修」に名を連ねている北村さん。
監修というか生き証人というのか、南極第一次越冬隊から帰ってきてご存命の唯一の隊員。
御年90近いのに本のインタビュー風景を伺うにご健在で力強い印象を受けました。
研究者としての道を歩まれたゆえの、真実に対する厳しい目線や洞察力も鋭く、紡ぎだされた考証に感動いたしました。
そして著者の嘉悦さん。
新聞記者として長い時を歩まれた方の矜持と言いますか
「現場にこそ、真実はある」に真摯に向き合われたからこそこの本が出来上がったのだと思うと敬愛の念が止みません。
実際にあった出来事を風化させず、正しく見据えようとすることの大切さが節々に説かれているように見受けられました。
両御方の立場を(端くれではありますが)経験したことのある身として、真実希求への道のりの大変さを欠片ばかりに推察致します。
途方も当てもない中、様々な証拠をもとに一つの結論にたどり着き、出版という形でこうして多くの方の目に触れるものしてくださったこと、非常に重要な意味があるように私は思います。
この本で、題材となっているのは今から60年以上前に行われた日本初の南極観測隊、その裏側です
正直、私自身もタロとジロが南極に置き去りにされて1年経って帰ってきたらまだ生きていた、というダイジェストなストーリーしか知らず、そのことに対して特に疑問などもないままイイハナシダナーと思って過ごしてきました。
でも、考えれば、当たり前ですよね。
ソリ曳き用の犬として行ったのがタロとジロだけのわけがない、日本初の試み、戦後間もない国内情勢、それらを踏まえればただの感動物語として済むようなものばかりであるわけがなかった。
この本の素晴らしいことは(北村さんが提案し、実際に嘉悦さんが実践しているのですが)、南極に行った犬すべてに焦点が当たっていることです。
一匹一匹が生きた証をしっかり残す、非常に大切なことだと思います。
そして、それはもう北村さんにしかできないことなので、まず各々の犬にしっかり向き合ったことがこの本の一つ大きな価値があるところだと思います。
ただ、これが、犬を紹介したかったという想いにとどまらず、本としての大きな魅力にもなってくるのがすごいです。
この本は、タイトルからも分かる通り『タロとジロ以外にも生きていた犬がいた』という衝撃的な事実に目を向けます。
そしてその次に我々が思うのは、”生き残っていた犬はどんな犬なのか”ということです。
ここで、本の構成を見てみると、
- 北村さんと嘉悦さんの出会い、“第三の犬”の存在への言及(現在1)
- 南極観測隊の経緯・調査・帰還(過去)
- “第三の犬”の存在の解明(現在2)
となっていて、この②の部分で、事細かにそれぞれの犬の特徴や実際にあった出来事を述べているからこそ、読者も「じゃあ第三の犬はどの子なのか」ということを一緒に考えながら読み進めることができるのです。
さながら、気持ちはミステリー小説を読んでいる気分ですらあります!
探偵として、現場証拠から考え得る最適な答えを探る作業、これが犬一匹一匹をフォーカスしたことでよりのめりこみながらできるようになっています。
実話を読みました~、というだけではない物語としての面白さもこの本の大きな魅力です。
また、犬って本当に賢いんだなと思わされます。
読みながら何度も泣きそうになりましたし、人との心の繋がりに胸が熱くなりました。
私も黒柴と15年同じ時を過ごしたからわかりますが、同じ言葉を介さなくても伝わることって本当にとても多いんですよね。
改めてイヌとヒトの繋がりについても考えさせられました。
この本は、多くの方の目に触れられるべき作品だと思います。
もっともっと皆さんに読んでほしいです。
今後も個人的に宣伝し続けようと思います。
昨日星を探した言い訳
「昨日星を探した言い訳」河野裕
(2020年8月24日 KADOKAWA)
<https://www.amazon.co.jp/dp/B08F9S7D68/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1>
なにか特別な夢を見た後に似ている。
自分の中で発見があって、腑に落ちたものがあって、どこか意地悪されたかのように疑問符も置いてかれて。
そんな夢から覚めたとき、なぜだか僕はこの夢のことをずっと覚えているような気がしている。
その感覚に僕は、甘えてしまう。記憶としてつなぎとめるという作業を怠ってしまう。でもそれは、ひどく大切でそっとしておきたいからだ。文字にして残すにしたって、符号的なものに頼ってしまうことになる、そんな切り取られた言葉に想いを窮屈に無理矢理閉じ込めてしまうのは違和感を覚える。
と、そんなことを考えたあたりで、あれ、どんな夢を見ていたのだっけと思う。
微睡みに溺れたまま場違いな切迫感とともに、夢の欠片を拾い集めようとする。
ただ、それは残念ながら叶わない。
手を伸ばしても宙を切るだけで夢の記憶に触れないことに僕はひどく焦る。
でも躊躇なく遠ざかる朧げな夢のイメージに対して、またねなんて言葉をかける強気な自分がいたりもするのだ。
負け惜しみもカラカラと廻ると、潔くなるのだろう。
なんてたって朝日も横目で僕のことを窺っている時間だ。
僕はこれから起きて、しょうもない沢山のことを考えなきゃいけないんだ。
夢はもう思い出せない。
けど、今日の始まりの心を少しだけ温かくしてくれてありがとう。
そんなことを、思って恥ずかしくなって布団をはがす。
そんな僕にとっての夢みたいな本に出会ってしまった。
「昨日星を探した言い訳」河野裕 著
出会えて良かった。心からそう思える一冊だ。
それこそ、今抱いた特別な想いを、ここにこうして書き殴ることしかできなくて。
ありとあらゆる隙間から僕が確かに感じていたはずの想いがこぼれ落ちていく。
そのことがひどく悔しく悲しくもどかしくなるけど。
でも、それでも、感じたこと想ったことを残したい。だから今、急き立てられるかのように言葉を並べている。
できるだけこの物語のエッセンスの一つ一つを僕は間違いなく噛み締めたい。
ただ、きっとそれはできない。単純に読み解く力が足りない僕が未熟なんだと思う。
別に自分が理解できるところまでを納得いく範囲で理解すれば良いんじゃないかと思うかもしれない。
それは、そのとおりなのだ。理解はできる。ただ、なんというか、それだと、非常にもどかしいのだ。
例えば、価値のあるものだよと教えてもらった絵画をどう見るかにも似ているかもしれない。
これは価値の高いものなのだという気持ちを抱いて見ることは出来る。
ただ、それだけだ。誰かが付けた本当とも言うべき価値を僕は見出すことができない。
そしてそのことに僕は焦燥感を覚える。
それはもっと漠然とした不安にも繋がることを無意識に感じているからなのかもしれない。
だって目の前にあるものの価値も分からないなら、目の前にないものの価値なんて到底分からないかもしれないじゃないか。
いくつも浮かぶ、かもしれない不安が僕を包むと、どこかのタイミングで諦めと共に霧散していくのも分かる。
その感覚も僕は、嫌いだ。
許してはいけない自分を許すことを、許している気持ちになって、許してはいけないなんて思っていたのが遠く感じるし、滑稽なように感じる。
全部全部本当に感じた気持ちなんだ。
でもいつかは結局忘れていく。そのことを僕は短くないこれまでの人生で知ってしまっている。
厳密に言うと忘れたことを覚えているのではなく、忘れたことを忘れたくなかったと縋る気持ちの所在なさを覚えているのかもしれない。
この本を読んで、何故かそんなことを心から考えさせてもらいました。
もう、まったくこんな小説に出会えるから読書って素晴らしいんだなって思う。
間違いなく僕にとって大切な1冊になりました。
きっとこの本を、数十年後かに読んで、受け取り方も変わったりするのだと思う。
ただ願うことなら、あのとき、こう思ったんだよなという記憶の断片は消えないでいて欲しい。
未来の僕には、出来ることなら初めてこの本に出会った時の僕の想いを尊重して寄り添ってくれると嬉しい。
それは、言うなれば、未来の僕が今の僕に周波数を合わせる作業に似ていると、そう信じている。
Summer Pockets REFLECTION BLUE
「Summer Pockets REFLECTION BLUE」
<https://key.visualarts.gr.jp/summer_rb/index.html>
眩しさだけは 、忘れなかった。
ここまで心が震えた作品は本当に久しぶりです。
結論から申し上げますと、
これを今読んでくださっている皆さまに是非是非是非一番やっていただきたいゲーム、それが「Summer Pockets REFLECTION BLUE」(以下サマポケRB)です。
https://key.visualarts.gr.jp/summer_rb/index.html
ということで、ネタバレは無しで、この作品の魅力を今からお伝えします!
このゲームをすると、あなたは確実に
【心からの感動】【今を全力で生きる力】【大切な人への感謝】
を手に入れることが出来ます。
胡散臭いかもしれませんが!(笑)確実にそうだと、胸を張って言えます。
どうしてもこの作品の素晴らしさを余すことなく伝えたい!
ですが、そのまえにまず、あらすじを・・・
主人公である鷹原羽依里は、亡くなった祖母の遺品整理のために夏休みを利用して1人で鳥白島にやってきた。
1日数本しかない連絡船を下りたとき、1人の少女と出会う。
彼女は潮風に髪を遊ばせながら、遠くを…海とも空とも言えない境界線をただ眺めていた。
気がつけば少女はどこかへ行ってしまい、羽依里は狐に摘まれた気分になりながら、祖母宅へ向かう。
そこではすでに親戚の叔母がいて、遺品整理を行っていた。
羽依里は、祖母の思い出の品の片付けを手伝いながら、初めて触れる「島の生活」に戸惑いつつも、順応していく。
都会暮らしでは知ることの無かった自然とのふれ合い。
忘れていた懐かしい何かを、思い出させてくれるような、そんな生活だった。
海を見つめる少女と出会った。
不思議な蝶を探す少女と出会った。
思い出と海賊船を探す少女と出会った。
静かな灯台で暮らす少女と出会った。
島で新しい仲間が出来た――
この夏休みが終わらなければいいのにと、そう思った。
ノベルゲームというものがあります。
『自分で選択肢が選べてBGMが付いている小説』というニュアンスが一番分かりやすいでしょうか。
サマポケRBは、Keyというゲームブランドが2020年に出したノベルゲームです。
絵柄を見てもらって、一般の方が思うのが
「あーこれが可愛い子とイチャイチャするギャルゲってやつね、興味ないわけじゃないけどわざわざやるほどではないわ」
というところではないでしょうか。
正直、自分的にはその意見はすごく分かります。僕もこういったゲームを頻繁にやるタイプではないので、楽しみではありながらも腰を上げてまで(ゲームするとき座ってますけどね!)プレイするのは、労力がいるなと思ってました。
でも、そんなちょっとしためんどくささを避けてきた、そこのあなた!
あなたにこそ、この作品をプレイしてほしいと、心から思います。
言い方が気に障るかもしれませんが、なによりあなたのためにそう思うのです。
このKeyという会社、今までも実は何作品ものノベルゲームを出しています。
AIRという作品の「鳥の詩」はもしかしたら聴いてみたら知ってるという方も多いと思いますし、アニメ好きであれば『CLANNADは人生』という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
Keyの産み出す作品の最大の特徴はそのストーリーの秀逸さにつきます。
非常に感動的で、人々の心を芯から揺さぶるような作品を創ることにおいては、創作界隈で右に出るものはいないと僕は考えています。
それは、多くの作品のテーマが「恋愛」に留まらず、「友情」や「絆」そして「家族」まで及び、その一つ一つの描写を丁寧に表現しているからです。
思わず画面越しに声を出して笑ってしまうようなコメディシーンを繰り出したかと思えば、主人公が慟哭しプレイヤーの心をひどく穿つときもあります。
だからこそ、いつの間にかその世界観にどっぷりと使ってしまい、登場人物たちの気持ちに共感して大きな感情の変化が僕たちにも訪れるのだと思っています。
さて、そんなKeyの中でも、僕史上一番となったのが今回のサマポケRBという作品です。
では、何が、そんなに素晴らしいのか。
ーーー
<1.キャラクター>
まず、その一つはキャラクターの魅力です。
どうしてもこういった作品はコテコテのキャラ設定で、初見で「うわっ」と思わせてしまうものが少なくありません。(ex:金髪ツインテールツンデレ後輩的な?)
サマポケRBにそういったキャラ立ちの要素が皆無かと言われれば、そんなことはないかもしれませんが、それでも一人一人が本当に魅力的なんです。
個人的には、見ているだけでイライラするようなキャラは誰も登場せず、本当に実際にいるなら会って友人になりたい、そう思わせる温かい人柄の方たちでした。
作品の舞台が離島で、登場人物が島民というのもあって人との繋がりを大切にして誰かを想い合うことが出来る人たちばかりです。
話しを進めるためだけにでてくるような嫌らしい性格の人間というのが存在しないので、自分自身がこの世界の一員に居たい、そう思わせるような力があります。
<2.音楽>
次に、音楽も素晴らしいです。
全ての登場人物にテーマ曲のようなものがあり、これを聞くともう刷り込みで気持ちが喚起されます。音楽のタイミングもここぞというところでとっておきのが来るんですよね。涙腺がガバガバになります。心地よいです。
あと、本作品は歌詞付きの曲も非常に多いので(10曲以上)、そのそれぞれの歌詞の意味を噛み締めながら聴くと余計涙が止まらなくなります。
メインテーマのSea, You & Me はもう聴くだけで涙腺が緩む一曲となってしまいました。
<3.シナリオ>
さて、最後にして最大の魅力、シナリオです。
本当に素晴らしい!!!
本作品は7人のヒロインのルートがあることになっています(実際はどうでしょう…笑)。
これ、めっちゃすごいことなんですが、どのヒロインのルートでも泣けます。
全部違う話なのに、どれも心に来るような展開で揺さぶられます。
①夏休みを忘れた少女 鳴瀬しろは
②島の伝承を追う少女 空門蒼
③海賊船を探すお嬢様 久島鴎
④自分探しの少女 紬ヴェンダース
⑤鳥白島のスナイパー 野村美希
⑥おっぱいは正義 水織静久
⑦鬼を追う少女 神谷識
<https://key.visualarts.gr.jp/summer_rb/index.html>
の7人です。
(数人おかしな肩書きの人もいますが、しっかり感動するので安心してください)
1人数が足りないですって…? ふぉっふぉっふぉ。良い着眼点です。
個人的には、この7人のルートだと『海賊船を探すお嬢様』の話が一番ぐっときました。シナリオの構成として素晴らしくて、自分なりに話を要約してなぜここまで感動してしまったのか分析とかもしてしまうほどでした。笑
あと、もともとギャルゲとかをプレイした経験がある人は『自分探しの少女』の話でボロ泣きする人が多いみたいです。僕もしっかり泣きました。あんなの泣くしかない。。。卑怯。。。
あと、やはりKey作品だなと思うのは、上記に留まらないふざけたシナリオエンドもあったりします。
何言ってるのか分からないと思いますが、『島で一番の卓球プレイヤーになるルート』や、『「島モン」というほぼムシキングみたいなゲームで島内一位を目指すルート』があったりします。
意味わからないですがめちゃくちゃ楽しいです。
全体的に会話のテンポも良く、高校生が島で出来た友人と親睦を深めていく様子が、とっっっても伝わってきます。
Key作品の醍醐味、男同士がバカしあってるの大好きです。
青春を凝縮したような時間が、すごく心地よいんです。
ーーー
とまぁ、このような素晴らしい作品です。
ただ、僕だけが声を大にして素晴らしいと言っていても説得力が足りないと思ったので、色々見てみました(2020年8月23日現在)。
Amazon: 4.7/5点 (111件の評価)
AppStore: 4.9/5点 (2263件の評価)
GooglePlayStore:4.4 / 5 点(1034件の評価)
これ・・・小説、映画、アニメ、どのような表現作品と比較しても良いですが、べらぼうに高い点数です。
食べログやFilmarksでこんな点数あまり見たこと無いですよね…?
本当にそれだけの人がこの作品を見て高評価をしているんです。
ネタバレを書いている人もいるので読む推奨はし辛いんですが、レビューを見てみると多くの人の心に届いたんだなというのが伝わってきます。
さて、ここまで読んでくださった皆さんに一つ質問がしたいです。
それは、『夏休みの正しい過ごし方を覚えていますか?』ということです。
勿論、答えなんてないです。
ただ、あの、始まったらいつまでも続くような気がしている夏の遠さや、明日は今日よりもっと楽しくなるような根拠のない期待感、夏だからと言い訳すれば一歩踏み出す勇気をもらえるドキドキ感。
今となっては儚くて尊い大切な時間。
それを思い出させてくれるのがこのサマポケRBなんです。
プレイし終えて不満が少しでもあれば、全額僕が代わりに払ってあげても良いくらいです。
まだ、ノベルゲームというものをプレイしたことがない人、最近しばらくこういったことをやってないなぁという人、何でもいいから感動したい人、今の自分を変えたい人、そんな人たちにこの文章が届いて、騙されたと思ってでもいいからサマポケをやってくれたらいいなと心の底から思います。
最後になりますが、何よりKeyの皆様方へ、
「Summer Pockets REFLECTION BLUE」という素晴らしい作品をこの世に生み出してくださり、ありがとうございました。
心の底から御礼を申し上げます。
以上、長々とありがとうございました。
ちなみに以下は「もし買うよ」ってモチベになった人向けのより詳しいQ&Aです。
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Q「Summer Pockets(サマポケ)とSummer Pockets REFLECTION BLUE(サマポケRB)の違いってなに!どっち買えばいいの!」
A「RBが内容増加版なので、こっちを買ってくれ!!!!」
サマポケは2018年、サマポケRBは2020年6月に販売されています。
RBでは、無印(2018年にでた方のサマポケを指す言葉)と比べ、3人のヒロインが増えたほか、卓球のミニゲームも拡張、さらに立ち絵&音楽の増加、シナリオの加筆修正が行われています。ゲームのボリュームさでいうとRBは無印の1.4倍くらいになってると思いますので、よっぽどの理由が無いのであればRBを買うことをおススメします。
ちなみに僕はもう無印を去年買ってプレイしていたので、今年RBを買うか悩んでましたが、買って大正解でした。追加で増えたシナリオが本当に、本当に素晴らしすぎて…(涙尻を押さえる)。
もし、無印プレイしたからRBいいやって思ってる人がいたら「待ってくれ、RBを見るとまた受け止め方が変わる描写が多々あるんだ」ということを心から伝えたい。悪いことは言わないから。やってください。
逆に無印にあってRBにないものは当たり前だけどほぼ無いです。挿入歌が少し変わったので以前の方が良かったという人も散見しましたがそれは本当にヒトの好みですかねぇ。
Q「どこに売ってんの?どうやりゃできんの?」
A「選択肢は沢山ある、選べ!」
①ネットで買ってダウンロードする。
https://key.visualarts.gr.jp/summer_rb/shop_guide.html
↑ここで買う!DLは重いので時間が少しかかりますが、ノリで買おうと決心した1時間後にはもうプレイを始められます(実体験)。ネット社会すごい!お手軽!
税込みは8910円。
高い?ちょっとそれは僕も当時思いました。(笑)
ちなみにプレイし終えた今は「この感動が、たった、1万円弱で、良いの…?」くらいの気持ちになります。洗脳されていないです。ホントです。
②携帯アプリでやる
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.product.kn.summerpockets&hl=ja
最近はスマホでこういうゲームが出来るんですね。時代ですねぇ。
シナリオごとに980円とかで買えるみたいです。
多分全ルート開放するとしたら7000円くらいになるんですかね。
※ミニゲームの卓球と島モンファイトはついてない
(③Switchでやる
ただし、これは無印の方しか販売されておらずRBはまだ売られてないので、買うのは待ちが良いかも)
↓ちなみに無印の方は体験版もあります(ボリュームが体験版とかいうレベルじゃない)
http://key.visualarts.gr.jp/summer/download.html
もし買う前に雰囲気をどうしても知りたいとかあれば試しても良いかと。
ただ、絶対最後までやらないとこの作品の素晴らしさは伝わり切らないので、どうか、どうか是非最期までプレイしてほしい・・・!
Q「やったほうが良い?」
A「頼む、やってくれ。絶対後悔はさせん。絶対だ」
Q「何分くらいで全ルート終わる?」
A「僕個人でいうと1人のルートをクリアするだけなら3時間くらい。全員分クリアするには、なんやかんや30~40時間くらいでは?」
Q「そんなにやる時間無いのだが?」
A「まずは1、2人をクリアしよう。
そしたら恐らくもうその質問をしようという意志自体が無くなるに違いない。
1つ忠告。昼寝し過ぎないように」
Q「でもやっぱ悩んでます~。やろうかなぁ、どうしよう」
A「やろう。夏の眩しさを追いかけに行く、一歩目の勇気を持とう」
Q「やります」
A「よっしゃ。また、長い、長い、とびっきりの夏が始まるぜ!」
どんな時も — 夏の青さを、覚えていた
プシュケの涙
「プシュケの涙」柴村仁
(2010年2月メディアワークス文庫 ※もとは2009年1月電撃文庫)
あらすじ
これは切なく哀しい不格好な恋の物語。
夏休み、一人の少女が校舎の四階から飛び降りて自殺した。彼女はなぜそんなことをしたのか? その謎を探るため、二人の少年が動き始めた。一人は、飛び降りるまさにその瞬間を目撃した榎戸川。うまくいかないことばかりで鬱々としてる受験生。もう一人は“変人”由良。何を考えているかよく分からない……。そんな二人が導き出した真実は、残酷なまでに切なく、身を滅ぼすほどに愛しい。
<勝手にこんな人にオススメ>
○あらすじ以上に話が深まる話が好きな人
○ネガティブを根源としたモチベーションを見たい人
○もう、どうしようもないという、もどかしい気持ちを味わいたい人
あまり見たことのない構成の話で非常に面白かったです。
まずは未読の方のために、内容にあまり触れないようこの本の魅力を伝えたいと思います。
僕としては著者の柴村さんが文中で用いる地の文の表現がとても好きでした。
なるほど、この状況をまとめるとこのような言葉を使うのかと、すとんと胸に落ちてくるような言葉選びが秀逸です。
例えば
不幸っていうのはきっと不幸同士で仲が良くて、皆でお手々つないで同じ目的地にどやどやと踏み込んでくるんだ。p208
こんな表現があります。
不幸同士が手を繋ぐ、この言葉から伝わる感覚というか温度感みたいなものがすごいなと僕は思ってしまうわけです。
①不幸同士で仲良いという擬人法
②不幸はいつも連なって訪れるという無情さ
③「不幸がお手々つなぐ」という平和的な言葉に内在する残酷さ
④不幸側は加害者意識が無いという無邪気さ
といったようなことが伝わってきて、ああ、苦しくも的を射た言葉の組み合わせだと感じます。
あとは、全てが手遅れになってしまってから、登場人物たちに愛着が湧く構成。これというのは素晴らしいなと思いました。
なんというか、大人になってから飲み会で友達から「そういえば高校の時クラスが一緒だった○○、毎日花に水やりに朝早く登校してたらしいよ」と聞いて、へぇ~、高校の時もっと話せば仲良くなれたかもしれなかったなというような後悔(本編中の後悔はもっと大きいものですが)に似ているかもしれません。
僕としては、この本に出てくる彼方という人物がいつ恋心を抱いたのか、それを誰かと語ってみたいなとそう思います。
もし既読の方がいたら是非・・・。笑
パプリカ
「パプリカ」筒井康隆
あらすじ
精神医学研究所に勤める千葉敦子はノーベル賞級の研究者/サイコセラピスト。だが、彼女にはもう一つの秘密の顔があった――。他人の夢とシンクロして無意識界に侵入する夢探偵パプリカ。人格の破壊も可能なほど強力な最新型治療テクノロジー「DCミニ」を巡る争奪戦が、刻一刻とテンションを増し、現実と夢が極限まで交錯したその瞬間、物語世界は驚愕の未体験ゾーンに突入する!
<勝手にこんな人にオススメ>
○夢に関わる物語に興味がある人
○情報量の多い小説が好きな人
○わけわからないけど良かった!という印象を味わいたい人
久々の感想です。
来ました。やばい方のパプリカ。笑
コロナ自粛期間にとうとう映画のパプリカを見たのがきっかけで小説も読んでみました。
映画はやばいやばいという噂を聞いていたので、どういったものか楽しみだったのですが、まぁやばかったです。笑
でも、思っていたよりもストーリーはあって、一度寝ぼけ眼で見て「???」となり、考察サイトを見てもう一度見たら、ほーうと納得しました。
ちなみに映画のパプリカ、僕はかなり好きです。
夢の支離滅裂さを映像表現するという点においては今までみた夢に関わる作品では断トツです。
まだ、未視聴の方には、主題歌である平沢進さんの「パレード」にパプリカの映像を付けたMV?を見て頂くのが世界観を知るのに手っ取り早いと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=Mr86_f-kLSQ
Youtubeのコメントを書く人たちも秀逸で、
「千と千尋の神隠しの、最後にちひろが振り向いてしまった後の世界」
「太宰治に光の速さで米津玄師をぶつけたら出来そうな曲」
「お祭りの中、自分だけ親とはぐれて迷子になってしまったような不安感」
「植物に聴かせて育てたらひとりでにうねうね歩きそうな曲」
「にほんごであそぼLv99」
というのものがあったりします。全てに同意します。
怖いもの見たさ?でも良いのでもし良かったら見て欲しいなと思います。
ちなみに千と千尋もパプリカも作画監督が安藤雅司さん(君の名はでも作画担当で一躍話題になってましたね)なので、世界観が似ているのは、その通りなんです。
さて、内容についてなのですが、ネタバレしないように説明しますが、映画と小説で大分違います。
『千葉敦子(夢の世界ではパプリカ)が、DCミニという装置を使って、精神疾患の患者の夢の中に入り治療をする』という設定と敵対人物と動機は一緒ですが、ストーリーの進行はほぼ違うと言って良いと思います。
ただ、どっちが良いとかじゃなくて、どっちも違ってどっちも良いってなっているのがこの作品の本当にすごいところだと思っています。
小説は450ページを超える長編です。いやぁ読んでいて情報量がすごい。
地の文に書かれる内容が、
①登場人物からの目線 ②風景描写
であり、更にこれにプラスして突然夢の描写が入ってくるので、今何が起きているのか流し読みだとさっぱり追えなくなります。
このわけわからない感じ(それでいてしっかり読むと何が起きているか分かる)が、この本の醍醐味です!
今まで読んだどの本とも種類が違っていましたね。
もしこの本が英訳されて入試の問題で取り扱われでもしたら、受験者を絶望の渦に飲み込むこと間違いなしです。笑
非常に興味深く、面白い小説でした。
立ち向かいたい人は是非是非に!笑