その犬の名を誰も知らない
「その犬の名を誰も知らない」著:嘉悦洋 監修:北村泰一
(2020年2月20日 小学館集英社プロダクション)
あらすじ
映画『南極物語』で知られるタロジロの奇跡から60年――いま明かされる真実の物語!
1968年2月、南極。日本南極観測隊・昭和基地近くで、一頭のカラフト犬の遺体が発見された。この情報は一般には知らされず、半世紀たった現在も封印されている。なぜ、これまでその存在が明らかにされなかったのか? はたして、犬の正体は? あのタロジロの奇跡から60年、第一次南極越冬隊の「犬係」で、タロジロとの再会を果たした唯一の隊員である北村泰一氏が、謎多き“第三の犬”について語り始める……。南極第一次越冬隊・最後の証人が明かす真実の南極物語。
<勝手にこんな人にオススメ>
○犬と人の実話に興味がある人
○一風変わったミステリーを読みたい人
○南極物語の裏側を知りたい人
まずは、この作品を作り上げた多くの方に感謝を届けたいです。
読ませていただきありがとうございました。
特に「監修」に名を連ねている北村さん。
監修というか生き証人というのか、南極第一次越冬隊から帰ってきてご存命の唯一の隊員。
御年90近いのに本のインタビュー風景を伺うにご健在で力強い印象を受けました。
研究者としての道を歩まれたゆえの、真実に対する厳しい目線や洞察力も鋭く、紡ぎだされた考証に感動いたしました。
そして著者の嘉悦さん。
新聞記者として長い時を歩まれた方の矜持と言いますか
「現場にこそ、真実はある」に真摯に向き合われたからこそこの本が出来上がったのだと思うと敬愛の念が止みません。
実際にあった出来事を風化させず、正しく見据えようとすることの大切さが節々に説かれているように見受けられました。
両御方の立場を(端くれではありますが)経験したことのある身として、真実希求への道のりの大変さを欠片ばかりに推察致します。
途方も当てもない中、様々な証拠をもとに一つの結論にたどり着き、出版という形でこうして多くの方の目に触れるものしてくださったこと、非常に重要な意味があるように私は思います。
この本で、題材となっているのは今から60年以上前に行われた日本初の南極観測隊、その裏側です
正直、私自身もタロとジロが南極に置き去りにされて1年経って帰ってきたらまだ生きていた、というダイジェストなストーリーしか知らず、そのことに対して特に疑問などもないままイイハナシダナーと思って過ごしてきました。
でも、考えれば、当たり前ですよね。
ソリ曳き用の犬として行ったのがタロとジロだけのわけがない、日本初の試み、戦後間もない国内情勢、それらを踏まえればただの感動物語として済むようなものばかりであるわけがなかった。
この本の素晴らしいことは(北村さんが提案し、実際に嘉悦さんが実践しているのですが)、南極に行った犬すべてに焦点が当たっていることです。
一匹一匹が生きた証をしっかり残す、非常に大切なことだと思います。
そして、それはもう北村さんにしかできないことなので、まず各々の犬にしっかり向き合ったことがこの本の一つ大きな価値があるところだと思います。
ただ、これが、犬を紹介したかったという想いにとどまらず、本としての大きな魅力にもなってくるのがすごいです。
この本は、タイトルからも分かる通り『タロとジロ以外にも生きていた犬がいた』という衝撃的な事実に目を向けます。
そしてその次に我々が思うのは、”生き残っていた犬はどんな犬なのか”ということです。
ここで、本の構成を見てみると、
- 北村さんと嘉悦さんの出会い、“第三の犬”の存在への言及(現在1)
- 南極観測隊の経緯・調査・帰還(過去)
- “第三の犬”の存在の解明(現在2)
となっていて、この②の部分で、事細かにそれぞれの犬の特徴や実際にあった出来事を述べているからこそ、読者も「じゃあ第三の犬はどの子なのか」ということを一緒に考えながら読み進めることができるのです。
さながら、気持ちはミステリー小説を読んでいる気分ですらあります!
探偵として、現場証拠から考え得る最適な答えを探る作業、これが犬一匹一匹をフォーカスしたことでよりのめりこみながらできるようになっています。
実話を読みました~、というだけではない物語としての面白さもこの本の大きな魅力です。
また、犬って本当に賢いんだなと思わされます。
読みながら何度も泣きそうになりましたし、人との心の繋がりに胸が熱くなりました。
私も黒柴と15年同じ時を過ごしたからわかりますが、同じ言葉を介さなくても伝わることって本当にとても多いんですよね。
改めてイヌとヒトの繋がりについても考えさせられました。
この本は、多くの方の目に触れられるべき作品だと思います。
もっともっと皆さんに読んでほしいです。
今後も個人的に宣伝し続けようと思います。