ライオンのおやつ
「ライオンのおやつ」小川糸
(2019/10/7 ポプラ社)
あらすじ
人生の最後に食べたいおやつは何ですか――
若くして余命を告げられた主人公の雫は、瀬戸内の島のホスピスで残りの日々を過ごすことを決め、穏やかな景色のなか、本当にしたかったことを考える。
ホスピスでは、毎週日曜日、入居者がリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫はなかなか選べずにいた。
――食べて、生きて、この世から旅立つ。
すべての人にいつか訪れることをあたたかく描き出す、今が愛おしくなる物語。
<勝手にこんな人にオススメ>
〇いま目の前にある幸せをかみしめたい人
〇思いのこもった料理に触れたい人
〇本を通して安らかな気持ちになりたい人
なんて、あたたかい物語なのだろう。
自身の心を内側からぽかぽかとさせてくれるような、そんな世界に足を踏み入れてしあわせな気持ちでいっぱいです。
余生をどう考えて、何を大事にして過ごすのか。
多くの創作の世界で語られてきたことではあるけど、この物語のように終わりに向かう人の時計の針を、毎週のおやつで確かめるやさしさには初めて出会いました。
主人公の雫の視点から見える世界の美しさも醍醐味です。
きっと、今僕が同じ景色を見てもこのように感じることはできないのだろうなと思うと同時に、そのことで不思議と心が高揚しました。
まだ、僕はこの世界のことを愛せるかもしれない。
もっと世界を愛したときに目に飛び込んでくるのはどんな景色なんだろう。
そのことにワクワクを感じてしまう自分がいました。
雫は33歳で余命を宣告されました。
たくさん辛いことを経験して、絶望を味わって、すべてを捨てて最後に訪れたのが、ライオンの家です。
心落ち着くこの場所で、雫は自分の人生と向き合いました。
大切な人と、犬と出会いました。大切な人たちのことを思い出しました。
死ぬことが怖いとやっぱり思いました。
生きることって素晴らしいことなんだと思いました。
当たり前の尊さに気付いて、それら一つ一つに丁寧に感謝して笑顔になる。
そんな彼女の人生の輝き方、瞬き方が眩しく見えるんです。
こんな気持ちで最期を迎えることができたらどれだけ幸せだろう。
そのために自分はいまを大切に生きているのか。考えてしまいました。
本を閉じた後、大きく深呼吸をして、あぁ幸せだなぁと心の底から思える素敵な一冊です。
疲れた時や心をホッとさせたいとき、是非手に取ってほしいです。