最後の秘境 東京藝大 -天才たちのカオスな日常-
「最後の秘境 東京藝大 -天才たちのカオスな日常-」二宮敦人
(2016年9月新潮社)
あらすじ
やはり彼らは、只者ではなかった。入試倍率は東大のなんと約3倍。しかし卒業後は行方不明者多発との噂も流れる東京芸術大学。楽器のせいで体が歪んで一人前という器楽科のある音楽学部、四十時間ぶっ続けで絵を描いて幸せという日本画家のある美術学部。各学部学科生たちへのインタビューから見えてくるのはカオスか、桃源郷か?天才たちの日常に迫る、前人未到、捧腹絶倒の藝大探訪記。
こんな人におすすめ
・芸術家の考えを知りたい
・ドキュメンタリー形式の小説を読みたい
・心をワクワクさせたい
非常に話題になった作品ですね!
僕も、音楽を10年近く続けています。お世話になった講師の方や、友人で藝大に行かれている方を何名も知っていましたので、どのように話を展開させているのか興味があって読み始めました。
まず概観として感じたのは、これは小説というより映像ドキュメンタリーの構成に近いなと思いました。
一人一人の学生に迫りクローズアップしては、程よいところで他の人物へ視点を向ける。
文字を追っているはずなのに、常に頭の中では「情熱大陸」のような画が思い浮かんできました。笑
また、登場する学生のなんと個性の強いことか。
さすがは天下の藝大に籍を置く方々なだけあってまず経歴がすごい。そしてチャレンジングなことを日々取り組んでいる。
ただ、ここでいうチャレンジングというのが『他の人にアッと言わせたい』というより自分の興味のままに探求をしていきたいという内に矢印が向いているものが多いように感じます。芸術家と科学者はもしかしたら非常に近いことをしているのかもしれない、そんなことも考えました。
印象的だったのは割と夢がハッキリしていない学生も多くいたこと。取り敢えず今はこれが楽しくてもっと極めたい、その先に将来は広がっているだろうとボトムアップで未来を見据えてる学生が思いのほかいることに驚きました。
こういういところも博士課程に進学する研究者の考えと結構似ていたりするのが興味深いですね。やはりすごい人、という言葉が適切かは分かりませんが、何か輝くものを持っている人だとしても、同じ人間なのだなと思いました。個人の主観ですが。笑
あと、これは著者の二宮さんの描き方の功績も大きいと思うのですが、読み進めていると、なにかこう読者側もすごくワクワクしてくるんですよね。自分もこういった芸術家になってみたい!もしくはこういった人をもっと応援したい!のような、彼らの世界を受け入れて自身と繋がっていくような感覚に浸りました。
現在、コロナウイルスの影響で多くの芸術家の方が非常に厳しい境遇に陥っています。
芸術は医療とは違って直接的に人の命を救うことは出来ません。ただ、芸術があるからこそ、人は生きようという意思を持てているのだと僕は心の底から思います。
芸術というと高尚なイメージを持つこともあるかもしれません。しかし、それは美術や音楽だけでなく、例えば映像だったり文字だったり料理だったり部屋の整理整頓だったり、世の中に広く遍在しています。アウトプットの仕方は様々なのです。
自分も誰かの心を救う芸術にずっと携わりたい。そう強く思いました。
未来永劫、世界が芸術に包まれていますように。