きみのためにできること
「きみのためにできること」村山由佳
1998年9月18日初版(集英社)
あらすじ
新米の音声技師、高瀬俊太郎には、夢がある。憧れの人、木島隆文の音を越える凄い音を創りたいという強い思いだ。そんな彼を支えてくれるのは幼なじみのピノコ。仕事が忙しく逢瀬はままならないが、メイルがふたりを結んでいる。そんな折、テレビの仕事で遭遇した女優・鏡耀子の妖しい輝きに俊太郎は引かれていく。だが、耀子は不倫の恋に傷つき、心を失いかけていたのだ。二人の間で揺れながら、彼は少しだけ大人になっていく…。
こんな人におすすめ
〇大事にしている相手がいるのに他の異性が気になる人
〇仕事をしながら支え合って付き合っている人
〇映像業界で夢見てる人
若手の音声技師さんが主人公ということでなかなか珍しい題材だなあと思いました。
この一介の技術さんが有名女優とひょんなことから繋がりが出来て…というこちらの業界に進む人にとってはなんとも夢のような話ですね。笑
この作品の主人公、高瀬君の良いところは誠実なことだと思います。
5年付き合っている彼女の日奈子がいるのにもかかわらず、年上女優・耀子に惹かれていってしまうのですが、ここで自分の考えを整理しているところが印象的です。
もしかしたら友情に限りなく近い恋かもしれないし、恋に限りなく近い友情かもしれない。でも少なくとも、恋にとてもよく似たものであることは間違いない。
これを(考え抜いた末に)伝えることができるのは高瀬君のすごいところであると思います。
きっと多くの人付き合いを深くしていく中で、お付き合いしている異性とは別の人に出会い特別な感情が湧いてしまうことは、決してあり得ないことではないと思うんです。むしろ実はありふれているものなのではないかと思います。
そこで、踏みとどまれるか。
いや、踏みとどまるという言葉は不適切ですね。高ぶってしまう自分の気持ちをメタ認知したうえで自身にとっての大事にしてきたもの・大事にしていきたいものを考えれるか、そういうことが一般的に言って求められてると思うんですよね。
と言っても、個人的にはこれは理想論だと思っていて。
もっと人というのはこういうとき打算的に考えてしまうと思うわけですよ。結婚までは考えられていない相手だとか。癒しはくれるけど刺激がないとか。連絡しなくて楽な相手だとか。ここで今の人を捨てて他の人と付き合うのは傍から見て最低だなぁとか。献身的、または重いだとか。まぁいろいろ。
だいたいこういうどうしようもない悩みって、しっかり考えるだけ考えて最後は直感!みたいな人が多いしそれが一種の答え!みたいになっていると思うんですけど、これってそこそこ無責任だと思っていて。
「しっかり考える」のゴールはどこなのか、ですよね。具体的に何時間かければとか、どういったゴールを見据えればとか、その明確なラインが分からない(し答えもない)からこそ悩んでいるわけで。
まーどうなんだろ。あとで振り返ったときに「しっかり自分は考えて決めた」という事実が大事なのかな。悩んで考えた末だからこそ決心に覚悟が持てるというか。責任持てるとか。
はい、なんにせよ。
この小説、大変読みやすかったんです。それで高瀬君を始め周りの人を応援したくなるんです。どれが答えか分からないのでどう応援したらいいのか分からないんですけど笑
このような魅力的な人たちを描けるのがこの作者さんの魅力だなぁと思っていて。
気持ちもよう分かるからいつ書かれたんだろうと思ったらもう20年以上前のものだったんですね。うはー。人の在り方というのは変わらないなぁと思いました。
是非是非お手に取ってお読みください~。