想い出のおもちゃ箱

本を読んだ感想や、ふと思ったことを書いてくブログです。自分の想いの整理や置いとく場所として使いますが、皆にも手を取って見てもらえたらすごく嬉しいです。感想もオススメも是非是非お待ちしてます。

君の話

「君の話」三秋縋

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(2018年7月25日早川書房)

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あらすじ

 二十歳の夏,僕は一度も出会ったことのない女の子と再会した。架空の青春時代,架空の夏,架空の幼馴染。夏凪灯火は記憶改変技術によって僕の脳に植え付けられた<義憶>の中だけの存在であり,実物しない人物のはずだった。「君は,いろんなことを忘れてるんだよ」と彼女は寂しげに笑う。「でもね,それは多分,忘れる必要があったからなの」

 これは恋の話だ。その恋は,出会う前から続いていて,始まる前に終わっていた。

 

 

 

こんな人におすすめ

・嘘を愛したい人

・幸せを認めたくない人

・心のどこかで運命というものを待ち望む人

 

 

 また三秋さんの世界に敢え無く引きずり込まれてきました。笑

この人の文章は本当に特徴的ですよね。たとえ著者を伏せられていても半ページ読めば確信を持って誰が書いたか言い当てることが出来ると思います。

 

 三秋さんの話って基本的には世界の作り方が普通の我々が今生きている世界と一緒なのですけど,一つだけ毎回違う要素(=SF)が入るんですよね。それが例えば自分の寿命を売れたり,恋心が寄生虫によって生まれたりということなのですが,今回はそれが<自分にとって偽の記憶を買い,植え付けることができること>でした。

 

 毎回入るSF要素は単に物語上のスパイスではなく根幹をなしており,もしこの設定で書くのならこの作品以上のストーリーは生まれないだろうなとなるのが,三秋さんの本当にすごいところです。特にそれは今回の「君の話」を読んだ時も,強く思いました。もし,多くの作家が「記憶を買える」という題材を用いたとしてもこの作品が完成形だと,僕は思ってしまう気がします。

 

 そして三秋さんの作品にとって特徴的な読後感も相変わらず顕在でした。それは,ハッピーエンドかアンハッピーエンドか判断が出来ないところです。判断が出来ないというか,ある誰かにとってはどうしようもないハッピーエンドだと思うし,また一方で誰かにとっては涙が止まらないほどのアンハッピーエンドだということです。

 ちなみに僕がどう思ったかというと・・・。

 悶々としてます。

 これをハッピーエンドとして認めたい自分とそうでない自分が戦っている感じ。これは決着つかないと思います。…しかしながらきっと,この感覚を得るために僕は三秋さん作品を読み続けているのだと思います。

 

 

 

あまり作品の内容に触れるとネタバレになってしまうので,この本の構成だけお伝えしようかと思います。

 

1部,主人公である千尋と,彼の義憶に存在する灯火の話

2部,灯火の半生と,灯火から見た千尋の話

3部,千尋と灯火,二人の話

 

1部,2部ともにこの小説は同じ文章から始まります。それは

一度も会ったことのない幼馴染がいる。p8,p188 

です。

 

この始まり方が印象に残っていればいるほど,一番最後の文章を読んでやられたと思います。

 

こういった伏線がこの本では各所で巡り張らされているような感じがして,一冊の本を読むというよりかは一つの芸術を読み解くくらいのイメージのほうが適切なのではないかと思います。

 

 

この愛すべき小説に出てくる千尋と灯火は幸せを掴むことに臆病な人たちです。

この本の発行後,インタビューで三秋さん自身が,失うものがない余生を喜べばいいのか,失うものさえ得られなかった半生を恨めば良いのか分からない人たちが出てくる物語だということを話していたのですがまさしくそのような人たちです。

幸せを認めるためには不幸せに向き合わないといけなく,その逆もまた然りのような。なんとももどかしさを感じます。

ただ,読んでいて,そういった考え方がなぜか他人事のようには感じられなく,ヒトの本質を突いたかのような言葉一つ一つに揺さぶられてしまうんです。

 

 

「君の話」という題名は良いです。何故なら,この物語はどうしようもないくらい千尋にとっては灯火の,灯火にとっては千尋の話になるのだから。

 

この本の,著者の魅力がより多くの人に伝わりますように。