想い出のおもちゃ箱

本を読んだ感想や、ふと思ったことを書いてくブログです。自分の想いの整理や置いとく場所として使いますが、皆にも手を取って見てもらえたらすごく嬉しいです。感想もオススメも是非是非お待ちしてます。

青くて痛くて脆い

「青くて痛くて脆い」住野よる

[ä½é ãã]ã®éãã¦çãã¦èã (è§å·æ¸åºåè¡æ¬) 

(2018年3月2日KADOKAWA)

https://www.amazon.co.jp/dp/B07B2RZMGP/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1

 

あらすじ

人に不用意に近すぎないことを信条にしていた大学一年の春、僕は秋好寿乃に出会った。空気の読めない発言を連発し、周囲から浮いていて、けれど誰よりも純粋だった彼女。秋好の理想と情熱に感化され、僕たちは二人で「モアイ」という秘密結社を結成した。それから3年。あの時将来の夢を語り合った秋好はもういない。僕の心には、彼女がついた嘘が棘のように刺さっていた。「僕が、秋好が残した嘘を、本当に変える」それは僕にとって、世間への叛逆を意味していた―――。

 

 

 

こんな人におすすめ

・物事を斜に構えている人

・理想を追求したい人

・自分の存在する意味を改めて考えたい人

 

 大分間が空いてしまいました。

先日読んだ「また、同じ夢を見ていた」に引き続きの住野よる作品です。

話しの方向性や文の雰囲気がガラッと変わって、同じ人が書いた本なのかとビックリしました。使う言葉の温度感というか。ホントに主人公の見た世界で地の文とか世界の表現をしている感じがして面白いです。

 

この、「青くて痛くて脆い」を読んだ時に僕は河野裕さんの「いなくなれ、群青」を連想しました。この両者に共通するキーワードは<理想>です。この<理想>というのは理想的な相手が云々という意味ではありません。そうではなく、人の理想を追い求める姿を間近で見て美しさを感じてしまった人たちが、その理想が崩れていくことを許せなくなるお話です。

つまり、なんてたって結構に我儘な話です。美しいモノには美しいままでいてほしいというエゴに塗れているのだから。

 

ただ、これが本当に人間的というか、どうしようもない感情だと思っていて。もう、こういうのを見ると人は勝手に人に期待して勝手に絶望してしまうのかなと思います。してしまう、という表現を使いましたがそれすら含めて人っぽいなと得心しますね。逆にここが麻痺してしまうということは、世の中の多くのことに我関せずの諦めシャットダウンしている機械人間化している気がしますし。

 

少し脱線してしまいましたが、この<理想>の描き方は当たり前だけど作者によって違って、同じ題材からこう別のストーリーが展開されていくのかと面白くなりました。

 

 

僕は、今回の主人公、楓が嫌いです。笑

楓は斜に構えています。意識高い系と言われる人に対して心の中で文句を言いまくりですが達観した体で受け入れてます。文句を言いたい理由としては、たくさんあるでしょう。声が大きい・周りを見てないなどの迷惑をかける、考えなしの言葉で人を傷つける、立派そうなことをしてる風なのに中身が伴っていない、とか。

で、そういう人たちを見下しているんですよね。楓のそういう一見無害なようでいて、コミュニケーションも普通にとったうえで、心の中で人をマイナスにマイナスに評価している感じがとても嫌です。

そういうのって口に出していないから大丈夫みたいなことを当人が思ってたとしても、案外周りの人は違和感を覚えると思いますし。

 

そして、僕がこの楓を嫌う理由としては、僕の価値観でそういったことを嫌いと言っておきながら僕自身そうなる時があることを自覚しているからっていうのが大きいです。

こういう生き方をしたい人はしても良いと思いますが、僕はこうではない生き方をしたい。でも出来ない。そこらへんのむしゃくしゃがあるのできっと心乱されます。この口論の時クリティカルに相手をむかつかせることを言う感じとかも、ホントね~。笑

 

小説自体は本当に素晴らしかったです。

ただ!個人的にこれは語らずにはいられないことがあります。でもネタバレになってしまうので、未読の方は以下お気を付けください。

 

・ 

・ 

・ 

・ 

 

 

僕が一番気に入らないのは覚悟をもってモアイを陥れた楓が、結局は後悔するということです。正直、彼が秋好とぶつかり合って会話をした際にゾクゾクしました。その喧嘩(?)シーンは本当に人間の醜さ・ままならさがあって素晴らしいと思いました。これだけの徹底抗戦をした挙句最後に何が残るんだろうと思ってワクワクしていたら…ただただ後悔してました。

僕はこれがどうしようもなく許せないのです。<理想>を追い切れなかった秋好を痛烈に批判したくせに。自分が正しいと信じて疑わずに秋好を陥れたくせに。それだけの信念をもって臨んだと思いきやすぐ後悔している。挙句の果てに一番見たくなかったのは秋好が傷つくところだったと気付くなんて、お門違いも甚だしい。

そこまでの覚悟をもってモアイを潰した彼には自分の正しさに、守りたかった自分なりの理想に最後まで執着してほしかった。むしろその程度の覚悟しかないのくせに、復讐なんかしないでほしかった。

 

いや、分かっています。きっと人間的にはここで反省して大人になることが必要なのでしょう。

でも!!彼は違うだろ!!!

彼には、もっと保身に走って、正しいことをしたと思い込み、自身の罪を認めず、遠い遠い世界まで駆け抜けて欲しかった。

そしてそれがどこに行きつくことができるのかを見せて欲しかった…。

 

こんな、普通に嫉妬して、それを見ない振りして大事な人を傷つけて、普通に後悔して・・・。僕がみたかったのは、楓が普通に人間として成長する物語じゃなかった。

業を背負う覚悟を決めた楓が、それでも突き進む物語だった。

 

なんで、こんな感情になるのか、自分でも分からない。

ただ、人の罪を頑なに認めなかった楓が、認めてもらおうとしていることに憤慨しているのかもしれません。

 

 

住野さんの作品は登場人物に優しすぎるのだと思いました。いろいろあったとしても最後に毛布をそっとかけてあげるような、そんなイメージです。

そんな作者が、布団を剥ぎっぱなしにしてそれでも寝ることを継続できるのか試すような小説をいつの日か読んでみたいです。笑

 

いや、ほんとに読後誰かと語りたくなる素晴らしい作品です。

他の住野作品も絶対読まなくてはと改めて思い知らされました。