想い出のおもちゃ箱

本を読んだ感想や、ふと思ったことを書いてくブログです。自分の想いの整理や置いとく場所として使いますが、皆にも手を取って見てもらえたらすごく嬉しいです。感想もオススメも是非是非お待ちしてます。

どこよりも遠い場所にいる君へ

「どこよりも遠い場所にいる君へ」阿部暁子

(2017年10月25日集英社オレンジ文庫)

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あらすじ

ある秘密を抱えた月ヶ瀬和希は、知り合いのいない環境を求め離島の采岐島高校に進学した。采岐島には「神隠しの入り江」と呼ばれる場所があり、夏の初め、和希は神隠しの入り江で少女が倒れているのを発見する。病院で意識をとり戻した少女の名は七緒、16歳。そして、身元不明。入り江で七緒がつぶやいた「1974年」という言葉は?感動のボーイ・ミーツ・ガール!

 

こんな人におすすめ

・ひと夏の少年少女の出会いが好きな人

・タイムスリップ×感動が好きな人

・島の話が好きな人

 

 

タイトルと表紙の美しさに惹かれて購入。

わけありで島の高校に引っ越して来た男の子が、ひょんなことから身元不明の女の子と出会い惹かれ合う物語。

こういうThe青春みたいな話好きなんです。。。正直、最初は薄っぺらい話かなと思ってたのですが、そんなことありませんでした!後半になればなるほど主人公やその周囲の人の内面に触れ、過去を知り、心の機微が分かる。

最初は、ただの一傍観者として覗いていたはずなのにいつの間にか感情移入していて、頑張れとガッツポーズを送りたくなってしまうような感覚がありました。まんまと引き込まれちゃいました。笑

 

 

あと個人的に、七緒が魅力的で好きです。最初は身元不明の女の子として現れて、警戒心を露わにしています。ただ主人公の和希に対してだんだんと心を開き自然に接してくれるようになると、それはもう可愛いのです。なんというのでしょう、無邪気でストレート、そして人思い、そんな言葉がピッタリの純朴なかわいらしさがあります。七緒の行動一つ一つは勇気がいるもののはずなのに、それでも貫き通そうとする彼女の意思に感嘆します。

 

 

タイムスリップで感動ものというとある程度のオチは決まってくるものです。なので、読み進めていく中であぁこれはもしかしたらこういうことなのかもしれないなと思うことがありました。ただ、予想を超えて素敵な話に方向が展開していくのでこれまたすごいです。七緒…あなたって子は…という気持ちになります(大ファン)。

 

 

読後、少しだけ切なく、けど笑顔で晴れやかに前を向ける作品となっています。

久々にボーイ・ミーツ・ガールの感動を味わいたい方にはおすすめの作品です。

 

チーズと塩と豆と

「チーズと塩と豆と」角田光代井上荒野森絵都江國香織

あらすじ

あたたかな一皿が、誰かと食卓で分かちあう時間が、血となり肉体となり人生を形づくることがある。料理人の父に反発し故郷を出た娘。意識の戻らない夫のために同じ料理を作り続ける妻。生きるための食事鹿認めない家に育った青年。愛しあいながらすれ違う恋人たちの晩餐—-。4人の直木賞作家がヨーロッパの国々を訪れて描く、愛と味覚のアンソロジー。味わい深くいとおいしい、珠玉の作品集。

(2013年10月25日集英社文庫)

 

<https://www.amazon.co.jp/%E3%83%81%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%81%A8%E5%A1%A9%E3%81%A8%E8%B1%86%E3%81%A8-%E9%9B%86%E8%8B%B1%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E8%A7%92%E7%94%B0-%E5%85%89%E4%BB%A3/dp/4087451224

 

こんな人におすすめ

・料理を通して人が変わる物語に興味がある人

・美しい短編集を読みたい人

・ヨーロッパを題材とした物語を読みたい方

 

 

直木賞作家の4人が「料理」と「ヨーロッパ」を題材にそれぞれ描いた本作。

どの作家も名前を聞いたことは勿論あるし、著作品も読んだことあったりしますが、改めて話の展開の仕方や文章の表現の仕方(というか観点の向け方)に個性を感じました。

 

以下、軽く概要

①神様の庭(角田光代)

→スペイン、バスクに住むアイノアの家族は有名なレストランを経営している。昔から、何か祝い事や特別なことがあるとアイノア家は親族一同で集まり食事をするクラブを行うことが通例だった。ある日、アイノアはクラブの場で母の余命が幾許かもないことを知らされる。このような大事な報告をいつものようなお祝いの席のような形で美味しい食事と共に行ったことに怒ったアイノアは母の死後、家族を置いて上京することを決意する。10年の月日が流れ、アイノアも料理人となったが、一切家に帰ることは無かった。しかし、ある出来事をきっかけに、家族が母の死を報告するためにクラブを開催した心境を実感することとなる。

 

最後の時間の記憶が幸福な食事の光景じゃ、なぜいけない?p46 

 

「だからとても残念だわ。あなたと、しあわせな食事の記憶を一回作り損ねたことが」p50

 

 

ちなみに、この作者の「愛がなんだ」は以前、映画・小説をまとめて感想を書いているのでこちらも良かったら。

 

https://corcaroli-f.hatenablog.com/entry/2019/05/13/212843

 

 

②理由(井上荒野)

→イタリア、ピエモンテ。アリダはかつての高校の教師であるカルロと付き合い、結婚した。30の歳の差があったが、まるでそれは関係なく、お互いを好いていた。今、アリダは34歳。カルロは脳震盪で意識を失ったまま長いこと病院にいる。アリダは足繁く病棟に通っては彼の好物だったミネストローネを作り続け、持ってくる。アリダはこのまま、恐らくカルロが帰ってこないだろうと思っている。これから、新しい出会いをしても良いのか、自分にその気力があるのか、自分がどうしたいのか、様々な葛藤を描く。

 

③ブレノワール(森絵都)

→ジャンはパリの2つ星レストランで料理人として働いている。フランス、ブルターニュにある実家の、意味の理解できない数多の習わしやブルターニュ人特有の鼻に付く誇りがジャンは嫌いだった。ある日ジャンは、母の危篤を知ったことで6年もの間縁を切っていた実家に久々に帰る。母は死の間際までジャンを認めることなく、逝った。その後もジャンはフランスのレストランで数年働き、ある出来事をきっかけにサラと会い、妻として娶る。料理することの意味を改めて考えたジャンとサラは二人で新天地に行き、旅人のための宿を経営することを決意する。宿で出す料理としてジャンが考えたモノの一つにはクレープがあった。このクレープこそが母の生前、ジャンと仲違いを顕在化させた原因だった。納得いくクレープを作る過程で、ジャンは母が自身に捧げてくれた愛情を知ることとなる。

 

アレンテージョ(江國香織)

→ルイシュとマヌエルはお互いに男性であるが惹かれ合っており2年半一緒に暮らしている。ある日二人は、ポルトガルアレンテージョにあるコテッジで3泊4日過ごす。これといった大きな出来事もなかったが、二人は些細にすれ違い、仲直りをする。コテッジで過ごしたこの3拍4日が、緩やかに優しく二人を近づける。

 

 

このような、4つの作品です。

どれも違う良さがありました。特に①と③はともに料理を営む実家と縁を切るという設定が同じなのですが、話を描く作者によって伝えたいことが違うことを痛感して面白いなと思いました。

 

 

とても悩みますが、個人的なベストは③のブレノワールです。

この話は、ストーリー自体もとても良いのですが、最後の締めがとても素敵です。

森絵都さんの描く世界観がこのようなものばかりなのだとしたら、是非他のものも読んでみたいなと感じました!

 

また短編集ではありますが、どれも自然に話が収まっており、読んだ前と後で読者の心持がちょっと変わるような優しく背中を押すあたたかさがあります。

 

改めて、料理、というものが人とどう関わっているかもて考えさせられます。

個人的には、つい先日「グランメゾン東京」というキムタク主演で、三ツ星レストランを日本でとろうと奮闘するドラマを観て大ハマりしていたものですから、非常に楽しく読ませてもらいました。

 

アンソロジーはこれまであまり触れてくること無かったのですが、異なる著者が描く様々な世界に入り込むことが出来て良いなと思ったので、これを機に他のものも読んでみたいと思います。

 

太陽のシズク

「太陽のシズク~大好きな君との最低で最高の12ヶ月~」三田千恵

あらすじ

死に至る「宝石病」を患う理奈は海の見える高校に転校してきた。不安と焦燥を抱えながらも、残された時間で「素晴らしい青春」を送らなければと頑張る彼女は、運命の恋人と無二の親友と出会う。一緒に過ごした最後の12ヵ月は、大切なことに気付いたかけがえのない日々だった……そして結末、秘密がすべて明かされるとき、物語は究極のハッピーエンドへ。2度読み必至の泣ける恋愛小説。

(2019年11月1日新潮文庫)

 

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こんな人におすすめ

・高校生の純愛系好きな人

・命の期限とその過ごし方に関わる話が好きな人

・2度読んでしまう系の本が好きな人

 

 

誰かの置き忘れか、実験室に置いてあったので読んでしまいました。笑

久々に、こういう感動系!で売ってる系の本を読みました。僕は、そういう恋愛系や命の重み系は好きなので、サクサク楽しんで読めました。

 

 

この本を読んで良いなと思ったのその設定です。

死に至る「宝石病」…とだけ聞くと、そういう謎の奇病で悩まされてのありがちな話しに思うかもしれません。でも、ただの病気ってわけではないんです。

 

この宝石病は、心臓に腫瘍ができて、発症したら死に一直線の難病という説明がされています。死後、この腫瘍が摘出されるとまるで宝石のように美しいそうです。命の華ともいえるその宝石は、世界に数多ある宝石のなかでも1番美しく大変高価で貴重なものとされています。

 そしてこの設定のスパイスとして良いなと思ったのが、この摘出された宝石にはその色や見た目に応じて“波のシズク”のような二つ名が付くそうです。実際、摘出した人が生前どのような生き方をしていたかによっても色味等は大きく異なっており、その人の全てが反映されているかもしれないとのことです。

 物語の主人公理奈は、5人兄弟の長女です。幼少期に父が亡くなったことをきっかけとして家族はとても貧乏な暮らしを送っています。そこで理奈は、自分が最期の瞬間まで充実した人生を送れば、死後素敵な宝石を取り出すことができるので、それを売ったお金で家族に楽になってほしい、という気持ちを抱きます。

ただ、輝かしい日々を送れば送るほど死にたくないという気持ちが高まってきます。ここが理奈の葛藤にも繋がっていき秀逸な設定だなぁと思いました。

 

 

物語には、小説ならではの叙述トリックが仕掛けられており、そういうものがあるかもしれないということを事前に考えてたしても、ネタバラシされるまで気づきませんでした。

改めて読み返すと辻褄合っているし、すごいなぁと。ただの恋愛小説では終わらない楽しめる作品となっています。

 

最後に理奈にとっての親友で特別な存在である美里の素敵な一言があったので紹介させてください。

「理奈みたいに、自分の幸せを一番に考えた上で、人のことも想えるのが、本当の優しさなんだよ」p194

 

旅猫リポート

旅猫リポート有川浩

(2017/2/15講談社)

 

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あらすじ

野良猫のナナは、瀕死の自分を助けてくれたサトルと暮らし始めた。それから五年が経ち、ある事情からサトルはナナを手離すことに。『僕の猫をもらってくれませんか?』一人と一匹は銀色のワゴンで“最後の旅”に出る。懐かしい人々や美しい風景に出会ううちに明かされる、サトルの秘密とは。永遠の絆を描くロードノベル。 

 

こんな人におすすめ

・動物と人の心の繋がりが好きな人

・学生時代の友人を改めて大事にしたい人

・幸いを考えたい人

 

 

 後輩に紹介してもらってすごく久しぶりに有川さんの本を読みました。『図書館戦争』や、『キケン』以来だから、下手したら5年ぶりとかかもしれません。なんとなく、有川さんの本は何か目標に向かって進む姿がキラキラと描かれていて素敵な印象がありました。そういう意味でこの本は、あらすじを読んだ時、どちらかというと消極的な進行をするんだなぁ、有川さんの味を生かせるのかなぁと思って、読み進めました。

 

 久々に読んでみて思い出しましたが、有川さんってかなりライトノベルっぽい文体を使うんですよね。この旅猫リポートも一人称はずっとサトルの飼いネコ、ナナからのものになっています。ナナは物分かりも良いし理知的なので、人を小馬鹿にしているのですが、その文体が少し気に障りました。笑 ライトノベル特有のやれやれ口調で喋っている感じですね。ネコってのは空気を読む生き物ですが、言葉を理解する生き物ではないと思っています。そういう個人の価値観の違い的なところで、これは違うだろっていう苦手意識もあったのかもしれません。

 

 一方で飼い主のサトル(宮脇悟)の描き方は素敵だなと僕は思います。そこまでネコに話す?ってくらいのことを話している気もしますが。サトルはナナの言っていることが分かりません。だから雰囲気でナナのことを理解していて、その塩梅みたいなものが現実味があって良いなぁと思います。彼自身のナナに対する想いや、友人への接し方には、サトルの温かい人柄が滲み出ています。有川本に必ず出てくる、尊敬できる登場人物として今回サトルがいたので、読んでいて気持ちよかったです。

 

 僕はこの本を読んで良かったなと思います。

 それを語るために今から内容の方に触れますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 サトルが最愛の猫、ナナを預けるために学生時代の親友たちの家を回る、というのがこの物語の柱となっています。その回る場所としては章のタイトルで言うなら、コースケ、ヨシミネ、スギとチカコ、ノリコの4か所です。最後のノリコだけはサトルの叔母の話かつサトル自身の話になるので少し様式が変わりますが、それ以外の3人に関しては学生時代の回想があり、そこでサトルとどんな日々を過ごしたのかが描かれます。

 

 どの話も印象深いのですが、個人的にはスギとチカコの話がお気に入りです。

 スギとチカコは幼馴染です。そんな彼らとサトルは高校1年生で初めて同じクラスになります。スギはずっと(咲田)チカコが好きでした。そんなスギはチカコとサトルが出会い、惹かれあっていく様子を間近で見て葛藤します。スギは自分自身にない振る舞いをできるサトルが人として好きではあるものの、劣等感を抱いていたし、このままだと確実にチカコとサトルの二人がくっつくことを予期していました。そこで、スギはサトルに対し「自分はチカコのことが好きだ」と告げます。友達思いのサトルは、スギにこう言われたら身を引くのが分かっていたからです。サトルは高校3年生の春に転校して、スギは安堵と後ろめたさに塗れながら一時を凌ぎます。しかし、その後3人は偶然同じ大学に入学して再会します。あるときサトルがスギに言います。

「俺、高校の頃、ホントは咲田のことちょっと好きだったんだよな」

(中略)

「頼む」

こらえようもなくひび割れた声が漏れた。

「千佳子にそれ、言わないで」

(中略)

宮脇は軽く目を瞠っていた。杉が最初に相談の態で口を塞いだときみたいに。

そして「大丈夫だよ」と苦笑した。

「お前たちはたぶん、お前が思ってるより大丈夫だよ」

p199、p200

 

大学を卒業して、何年かするとスギとチカコはめでたく結婚します。しかしスギは、サトルとチカコがくっつくかもしれなかった未来を考えては自身の罪悪感に苛まれます。

 

そんな状態で今回サトルは二人にナナを預けに来ました。チカコは勿論サトルのことを歓迎しますが、スギは今もなお自身の矮小さを感じて、サトルと向かい合うことが出来ません。結局ナナを預ける話は破断してしまうのですが、去り際、運転席から二人に向かってサトルは言います。

 

「俺、高校の頃、千佳子さんのことちょっと好きだったんだ。知ってた?」

(中略)

「いつの話をしてんのよ。いまさらそんなこと言われたって」

「だよな」

二人で声を上げて笑う。スギは気が抜けたようにほぅっとして、それから周回遅れで笑った。

P206

 

この後、スギはチカコに勇気を出して高校の時もしサトルに告白されてたらどうしたかを聞いてみます。

「でもまあ、二人の男の間で揺れる乙女心なんてものを経験しておいてもよかったかもね」

「揺れるのか」

意外に思って訊き返すと、千佳子は「そりゃ揺れるでしょ」と笑った。

「気になる男が二人いりゃ欲が出るわよ」

泣きたくなって、ぐっとこらえた。

(中略)

次に会った時は、もっと宮脇に気持ちのいい友達でいられる。

そのことが無性に嬉しかった。

p210

 

 

 この話の温かいところは何か所もあるなと思っていて。まずはチカコがスギをしっかりと高校のときから好きでいたこと。サトルはそのことを知っていて、おそらく自分では割り込めないだろうと思っていたこと。スギだけが勝手に負い目を感じていたが、きっとそのことをサトルは分かっていて最後にその針を抜いてあげたこと。スギの長年の葛藤が昇華されていくのが見れて本当に良かったなと思えます。

 ただ、一方でこの話には辛いところもあります。それはサトルがナナを預けに来た理由に直結しますが、もうこれを最後にスギとサトルは会うことがないのです。スギが次会ったときにサトルに対してやっと同じ目線で立てるようになったのに、そのことがかなわないということだけはとても悲しいです。でも、だからこそサトルは最後にスギの負い目を無くしてあげたような気もしています。

 スギとチカコの物語はifに溢れていて儚く美しいなと、僕は思います。

 

 

 ナナの覚悟とサトルの奮闘と二人の紡ぐ世界が僕はすごく好きです。だからこそ、別れに悲しい気持ちはあれ、幸せな最期で良かったと声を大にして言いたいです。

 最期の瞬間、サトルが描いた風景は何だったのでしょう。きっと僕はナナと旅の終わりに見た虹なんじゃないかと思います。織り重ねられた彩りはそのまま二人が過ごした日々のようです。サトルはきっとその虹を渡って遠くにいってしまいましたが、こんなに胸の詰まった旅立ちを見送ることできたことが何より尊く感じます。

 言葉が伝わらないからこそ、より純粋な想いをサトルはナナからもらい過ごしました。

 誰かを想うあたたかさを大切にしたい、そう思えるリポートです。

 

 

マージナル・オペレーション

マージナル・オペレーション」芝村裕史

(2012/2/21講談社)

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あらすじ

三〇歳のニート、アラタが選んだ新しい仕事、それは民間軍事会社―つまり、傭兵だった。住み慣れたTOKYOを遠く離れた中央アジアの地で、秘められていた軍事的才能を開花させていくアラタ。しかし、点数稼ぎを優先させた判断で、ひとつの村を滅ぼしてしまう。モニターの向こう側で生身の人間が血を流す本物の戦場で、傷を乗り越えたアラタが下した決断とは―?『ガンパレード・マーチ』の芝村裕吏が贈る、新たな戦いの歴史が、今はじまる。 

 

 

こんな人におすすめ

・頭の良い主人公ラノベを好む人

・戦略ゲーム系が好きな人

・架空の国際情勢とか戦争に興味ある人

 

 

マージナル・オペレーション01~05を読破しました。

もともとこれは友人に勧められたもので、久しぶりにインターナショナルな本?を読んだなぁと思っています。

 

ちょっとだけネタバレになるので大丈夫な方はお付き合い頂きたいのですが、01はただのプロローグにすぎません。

01では主に、日本で働くことを辞めたアラタが海外の民間軍事会社で働き始め才能が開花していきます。これが紆余曲折の末、アラタは仕事を退職?するし、24名の子どもたちを育てていくことを決意するという流れになって02に続きます。

 

アラタは軍事的指揮のセンスしか取り柄が無いので、それをもって傭兵業を営み子どもたちを使役して生活費を稼ぎます。どれをとっても非常に優秀な戦果を出すので、彼はいつからか「子どもつかい」と呼ばれるようになります

 

子どもたちを使って軍事行動をするというそれだけ聞くとかなり最低な奴なのですが、子どもたちの心情としては、かなり前向きです。アラタを父として敬い人として尊敬しています。

アラタも自分はこれ以外にお金を稼ぐことが出来ないとはいえ子どもたちに紛争の最前線を立たせているという罪悪感を常日頃持っています。ここにアラタの人間らしさがあります。

 

アラタは軍事的にずば抜けた読みが出来る一方、女性関係に対して余りに疎いというところがラノベっぽいので、そういうところは人を選ぶと思います。ただ、そこに目を瞑れば面白いなぁと素直に思います。

 

 

こういう戦略系の話が好きであれば、かなり楽しめると思いますのできょみある方は是非是非にです!

さよならの言い方なんて知らない。

「さよならの言い方なんて知らない。」河野裕

[河野裕]のさよならの言い方なんて知らない。(新潮文庫)

 (2019年9月1日新潮文庫)

<https://www.amazon.co.jp/dp/B07WBY4PM1/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1>

 

あらすじ

物語は始まる。八月の青い、青い、空の下で。

あなたは架見崎の住人になる権利を得ました――。高校二年生の香屋歩の元に届いた奇妙な手紙。そこには初めて聞く街の名前が書かれていた。内容を訝しむ香屋だが、封筒には二年前に親友が残したものと同じマークが。トーマが生きている?手がかりを求め、指定されたマンションを訪れると……。戦争。領土。能力者。死と涙と隣り合わせの青春を描く「架見崎」シリーズ、開幕。

 

こんな人におすすめ

・戦略ゲームが好きな人

・頼りないけど頭が切れる主人公が好きな人

・世界の謎を調べる話が好きな人

 

 

絶対、これはアニメ化しますね。最高にアニメ映えする作品だと思います。それこそワクワク度的にはSAOとかにも匹敵するような(少しそれよりも難解になりそうですが)。

 

そんなわけでとうとう読み始めました河野裕さんの新シリーズですが、厳密にいうと、「ウォーター&ビスケットのテーマ」という自身の小説の大幅加筆修正をしたものらしいです。

 

ちなみにこのウォーターとビスケットというのは誰かというと、物語の主人公である幼馴染3人、香屋、秋穂、トーマの好きなアニメに出てくるキャラクターという設定です。

 

「ウォーター&ビスケットの冒険」は子ども向けの時間に放映されたのに人気が出なかったアニメらしいです。

設定としては、元保安官の主人公ウォーターと、相棒の少女ビスケットが砂漠の惑星を旅するというものです。ちょっとキノの旅っぽいですね。笑

子ども受けが良くなった理由として、幸福を迎える話が半分くらいしかないことがあるそうです。作中に現れる国の情勢は余りにも残酷だし、手に負えない社会の不条理に巻き込まれれば逃げるし、難しい言葉もしゃべる。おおよそ子ども向けではないですね。

ただ、ヒットしなかった一方で、主人公たちのような一部の熱狂的信者が生まれた伝説のアニメ、だそうです。

 

もうこの設定、アツくないですか?

これだけで、僕はこのアニメを見てみたい気持ちになりました笑

加えて、ウォーターの作中のセリフをよく香屋が引用するんですがそれも格好いいんですよ!!

 

―――生きろ

とウォーターは繰り返し告げる。

(中略)

―――なんのために?

と誰かが尋ねる。

(中略)

―――そんなこともわからないまま、死ぬんじゃない。

P32 

 

 

「友情には価値がある。ライバルとの友情ならなおさらだ」

p39 

 

 

か、かっこいい・・・

 

といった風に作品の中に出てくる作品が格好いいって、なんかとても良いですよね。僕はそういう世界観のものがすごい好きなんだなと気が付きました。図書館戦争に出てくる植物図鑑のように、いつかウォーター&ビスケットの冒険も是非文庫化or映像化していただきたいですね。

 

 

横道にそれましたが、この話の本筋は、架見崎という異世界の街で起こる戦いについてです。

 

架見崎がどんな街なのかは謎です。分かっている情報としては一辺が5㎞の正方形のような形状で1000人近くが暮らしていること、各チームによる領土の争奪戦が繰り広げられていること、この世界で死ぬと現実世界に戻る(らしい)こと、8月の1ヵ月間を延々とループしており、人の生死や領土以外はループ時にリセットされること、人を殺すとポイントが加算されそのポイントをもってして武器や能力の増強が可能になること、くらいです。

 

このような街で香屋が目指すのは戦いに勝利することよりも、死なないことです。

臆病者である香屋は起こりうる事態をすべて想定し、その各々に応じた戦術を練ることで領土間の戦いを収めようとします。そして架見崎の真相を理解しようと行動をします。

 

こういった戦術ゲームの話は僕の好みに合うため、読んでいてなんとワクワクすることか!香屋も格好いいし、なによりキャラクターの一人一人が魅力的なんです!

 

謎が多い作品なので最終的にどのように落ち着くのか今は検討もつきませんが、階段島シリーズのミステリーを描いてきた河野裕さんの落としどころが非常に気になります。

 

是非是非多くの人に読んでもらいたい作品です!そしてウォーター&ビスケットの冒険の世界観についても語り合いましょう!笑

旅屋おかえり

「旅屋おかえり」原田マハ

 

(2014年9月25日集英社)

 

<https://www.amazon.co.jp/%E6%97%85%E5%B1%8B%E3%81%8A%E3%81%8B%E3%81%88%E3%82%8A-%E5%8E%9F%E7%94%B0-%E3%83%9E%E3%83%8F/dp/4087714462>

 

あらすじ

あなたの旅、代行します!

売れない崖っぷちアラサータレント“おかえり”こと丘えりか、スポンサーの名前を間違えて連呼したことが下人でテレビの旅番組を打ち切られた彼女が始めたのは、人の代わりに旅をする仕事だった―――。満開の桜を求めて秋田県角館へ、依頼人の姪を探して愛媛県内子町へ。おかえりは行く先々で出会った人々を笑顔に変えていく。感涙必至の“旅”物語。

 

 

こんな人におすすめ

・旅好きな人

・家族のような存在のあたたかさを感じたい人

・人生を前向きに臨みたい人

 

 

 

この本を読み終わった今、僕は旅行したくてしたくてたまらなくなっています。

なんて、旅をすることは美しいのか。初めて出会う風景、普段と違う食事、数多のイレギュラー、非日常の特別感、すべてが旅のスパイスとなります。

 

 

この本を読む中で、圧倒されてしまうのは主人公、おかえり(“丘えりか”)の旅への愛です。

圧倒というと暑苦しく遠慮してしまうところがあるかもしれませんが、そういう感覚にはなりません。彼女の旅への愛を聞くと、幼い子どもが今日一日の楽しかったことを報告してくれているかのような、あたたかい幸福感に満たされます。。

 

そして、おかえりを見守る人たちもまた家族のようにやさしく温かいのです。

旅番組の打ち切りという残酷な世界のなかで奮闘する彼女のまっすぐな姿を誰しもが応援していて、良き理解者となり支えてくれています。

 

原田マハさんの描く主人公は、どれも逆境の中でも輝き続け、その人の周りも美しく彩られるイメージです。人間として目指したい真摯な姿が詰まっているにもかかわらず、しっかり悩んだりして人間くさいところもあったり。そういうところも含めて魅力的だなと思います。

 

 

昨今では、撮影技術の進化とVRを用いたテクノロジーの普及もあり、旅行に行かなくてもそこに行った気持ちになれるコンテンツが幅を利かせ始めました。

そうなるとわざわざ高い金を払って景色の確認をしに行くのが勿体ないというか、そういう気持ちに駆られていた節が少しあります。

 

でも、この本を読んで旅っていうのは、単に目的地に行くことを指すのではなく、わくわくした『いってきます』から楽しかったの『ただいま』を言う全ての流れを指すのではないかと思うようになりました。

そこには素敵な人との出会いや道中のアクシデントも勿論含まれています。

きっと人の旅をしたいという気持ちは技術の進歩があっても、まだまだ底が見えないなと思います。

 

 

良い旅行をするとホクホクした気持ちになりますし、その想いを誰かに繋いで還元していきたい。

まだ見ぬ世界にこんにちはしていきたい。

旅ってこんなに楽しみなものなんだ、そう改めて気付かせたくれた本書には感謝です。

 

 

自分の旅もそうですけど、誰かにとってのおかえりという言葉を渡せるようなそんな人になりたいです。

この本を皆が読めば、平和な世界になるのになぁ。