チーズと塩と豆と
「チーズと塩と豆と」角田光代・井上荒野・森絵都・江國香織
あらすじ
あたたかな一皿が、誰かと食卓で分かちあう時間が、血となり肉体となり人生を形づくることがある。料理人の父に反発し故郷を出た娘。意識の戻らない夫のために同じ料理を作り続ける妻。生きるための食事鹿認めない家に育った青年。愛しあいながらすれ違う恋人たちの晩餐—-。4人の直木賞作家がヨーロッパの国々を訪れて描く、愛と味覚のアンソロジー。味わい深くいとおいしい、珠玉の作品集。
(2013年10月25日集英社文庫)
こんな人におすすめ
・料理を通して人が変わる物語に興味がある人
・美しい短編集を読みたい人
・ヨーロッパを題材とした物語を読みたい方
直木賞作家の4人が「料理」と「ヨーロッパ」を題材にそれぞれ描いた本作。
どの作家も名前を聞いたことは勿論あるし、著作品も読んだことあったりしますが、改めて話の展開の仕方や文章の表現の仕方(というか観点の向け方)に個性を感じました。
以下、軽く概要
①神様の庭(角田光代)
→スペイン、バスクに住むアイノアの家族は有名なレストランを経営している。昔から、何か祝い事や特別なことがあるとアイノア家は親族一同で集まり食事をするクラブを行うことが通例だった。ある日、アイノアはクラブの場で母の余命が幾許かもないことを知らされる。このような大事な報告をいつものようなお祝いの席のような形で美味しい食事と共に行ったことに怒ったアイノアは母の死後、家族を置いて上京することを決意する。10年の月日が流れ、アイノアも料理人となったが、一切家に帰ることは無かった。しかし、ある出来事をきっかけに、家族が母の死を報告するためにクラブを開催した心境を実感することとなる。
最後の時間の記憶が幸福な食事の光景じゃ、なぜいけない?p46
「だからとても残念だわ。あなたと、しあわせな食事の記憶を一回作り損ねたことが」p50
ちなみに、この作者の「愛がなんだ」は以前、映画・小説をまとめて感想を書いているのでこちらも良かったら。
https://corcaroli-f.hatenablog.com/entry/2019/05/13/212843
②理由(井上荒野)
→イタリア、ピエモンテ。アリダはかつての高校の教師であるカルロと付き合い、結婚した。30の歳の差があったが、まるでそれは関係なく、お互いを好いていた。今、アリダは34歳。カルロは脳震盪で意識を失ったまま長いこと病院にいる。アリダは足繁く病棟に通っては彼の好物だったミネストローネを作り続け、持ってくる。アリダはこのまま、恐らくカルロが帰ってこないだろうと思っている。これから、新しい出会いをしても良いのか、自分にその気力があるのか、自分がどうしたいのか、様々な葛藤を描く。
→ジャンはパリの2つ星レストランで料理人として働いている。フランス、ブルターニュにある実家の、意味の理解できない数多の習わしやブルターニュ人特有の鼻に付く誇りがジャンは嫌いだった。ある日ジャンは、母の危篤を知ったことで6年もの間縁を切っていた実家に久々に帰る。母は死の間際までジャンを認めることなく、逝った。その後もジャンはフランスのレストランで数年働き、ある出来事をきっかけにサラと会い、妻として娶る。料理することの意味を改めて考えたジャンとサラは二人で新天地に行き、旅人のための宿を経営することを決意する。宿で出す料理としてジャンが考えたモノの一つにはクレープがあった。このクレープこそが母の生前、ジャンと仲違いを顕在化させた原因だった。納得いくクレープを作る過程で、ジャンは母が自身に捧げてくれた愛情を知ることとなる。
→ルイシュとマヌエルはお互いに男性であるが惹かれ合っており2年半一緒に暮らしている。ある日二人は、ポルトガル、アレンテージョにあるコテッジで3泊4日過ごす。これといった大きな出来事もなかったが、二人は些細にすれ違い、仲直りをする。コテッジで過ごしたこの3拍4日が、緩やかに優しく二人を近づける。
このような、4つの作品です。
どれも違う良さがありました。特に①と③はともに料理を営む実家と縁を切るという設定が同じなのですが、話を描く作者によって伝えたいことが違うことを痛感して面白いなと思いました。
とても悩みますが、個人的なベストは③のブレノワールです。
この話は、ストーリー自体もとても良いのですが、最後の締めがとても素敵です。
森絵都さんの描く世界観がこのようなものばかりなのだとしたら、是非他のものも読んでみたいなと感じました!
また短編集ではありますが、どれも自然に話が収まっており、読んだ前と後で読者の心持がちょっと変わるような優しく背中を押すあたたかさがあります。
改めて、料理、というものが人とどう関わっているかもて考えさせられます。
個人的には、つい先日「グランメゾン東京」というキムタク主演で、三ツ星レストランを日本でとろうと奮闘するドラマを観て大ハマりしていたものですから、非常に楽しく読ませてもらいました。
アンソロジーはこれまであまり触れてくること無かったのですが、異なる著者が描く様々な世界に入り込むことが出来て良いなと思ったので、これを機に他のものも読んでみたいと思います。